囚われのシンデレラ【完結】
「西園寺さん、ごめんなさい」
その腕をぎゅっと掴む。
「どうして、謝る?」
西園寺さんがようやくこちらを向いた。
分かっている。私が、自分のことしか考えていないこと。
「お願いがあります」
西園寺さんが今、何を思っているのか分かっているのに私は西園寺さんに求めるのだ。
「……私を、抱いてください」
「あずさ……」
「それが、私のお願いです。私、西園寺さんにお願いばかりしてますよね。ごめんなさい。でも、今日はそのつもりでここに来ました。お願いします」
私のありのままの願いだった。
どうしても、この人が欲しい。この身体に西園寺さんのすべてを刻みつけたい。それを願って、旅行をしたいと言ったのだ。
懇願する私に、西園寺さんが苦しげに顔をしかめた。
「やっぱり、辛くなるだけだ。あずさをこれ以上傷付けたくない。苦しませたくない――」
苦しませたくない――それはそのまま西園寺さんの苦しみでもある。痛いほどに理解できる。
それでも求める私もまた、西園寺さんを苦しめることになる。
でも、どうしても――。
「傷付いたりしません。あなたに抱かれて、傷付いたりするわけない」
「今、こんな感情のまま抱いてしまえば、あずさのことなんて考えずめちゃくちゃにしてしまう。自分がどうなってしまうのか怖いんだ」
私に向けた背中が、葛藤も苦悩も物語る。
「西園寺さんになら、何をされてもいいです」
広くて大きな背中に、身体を寄せた。
「……今日一日、あずさを可愛く思えば、その次の瞬間には痛みになった。あずさの表情、仕草、全部愛おしくて。そのたびに、別れの事実を突きつけられて、張り裂けそうになる」
そんな思いを抱えながら、私に笑ってくれていた。そんな風にして、一緒に旅行をしてくれた。
強張る身体にきつく腕を回す。
「苦しめてるって分かってるのに、無理やりこんな風に抱きついてごめんなさい。でも、今しかないから――」
温かい背中に額を押し付けた。
「この瞬間だけは、何もかも忘れよう? 先のことも何もかも。今の、二人でいられる時間は、お互いのことだけを見ていたい。余計なこと考えないで、西園寺さんのことだけ想っていたい。あなたにずっと触れていたい」
どれほど辛いのか、触れているだけで分かるのに。
「ごめんなさい。こんなお願いばかりで、ごめん――」
「……もう、謝るな」
その背中が反転する。
「謝らなくていい」
そして、私をきつく抱きしめた。