囚われのシンデレラ【完結】
"必ず迎えに行くから、待っていてくれ"
本当は、そう言ってほしい。でも、西園寺さんがそう言わないことも分かっている。
西園寺さんがこれから向き合うものが巨大であればあるほど、背負うものが重ければ重いほど、未来の約束を西園寺さんは口にできない。
いつ果たせるかわからない約束で、私を縛りたくない。そう思うだろう。
それに――。
さっき、観光客で賑わう通りで、西園寺さんがどんな立場に立つ人か思い知った。
そんな西園寺さんが、自分の会社を告発すればそれだけ大きな反響がある。その分だけ騒がれ、より注目される。
良いイメージだった人ほど、面白おかしく騒ぎ立てられ真っ逆さまに評価は変わる。そんな自分がそばにいたのでは私の将来に悪影響だと、西園寺さんならきっとそう考える。
だから私は、『いつまでも待っている』と告げる代わりにこう言うのだ。
「愛してる。この先も、西園寺さんだけ」
「あずさ、ごめん、ごめんな――」
掠れて、震えている声。
私と出会ったことさえ責めてしまうだろうこの人に、全力で伝えたい。
「西園寺さんに出会えて、良かった。こんなに愛してもらえて、こんなに愛せる人に出会って、」
私の目尻に触れる西園寺さんの唇が濡れている。
「私は、最高に幸せな女だよ」
広くて大きな背中に懸命に腕を回した。
「あずさ……っ」
西園寺さんが私の唇を奪う。きつくお互いを抱きしめ、深いキスを夢中で繰り返す。
どれくらい、時間が経っただろう。
背中を、熱く濡れた舌が滑る。もう何度果てたか分からない。それなのに、この身体はまだ、快感を感じて肌を震わせる。後ろからきつく抱きしめられて、耳を嬲られる。
「……もう、だめ、おかしくなる」
「あずさを、こんな風にしてるのは、誰だ?」
ただ舐められていただけの耳に、熱い吐息が入り込んで来て身体が震える。それでも、執拗に舌を激しく這わせ息を吹き付けて来る。
「意地悪、しないで――」
「意地悪なんてしてないさ。ほら、答えて? あずさの中を一杯にしてるのは誰だ……?」
「西園寺さん、西園寺さんです……っ」
答えている途中にも、私の中をより圧迫するのが分かる。
背中にぴたりとつく、汗ばんだ西園寺さんの胸板。もう、二人を分ける境界線なんてなくなってしまえばいいのに。西園寺さんの腕の中で溶けてしまいたい。
「俺を、こんなにするのは――」
大きな手のひらが私の顎を掴み、後ろへと向けさせた。
「あずさしかいない」
唇を触れ合わせたまま囁くと、そのまままた深く塞がれた。
「……好きだ、あずさ。たまらなく愛してる」
瞼に溢れる熱いものを懸命に堪える。
窓の向こうの闇が少しずつ変化していく。残された時間が、手のひらの砂のようにこぼれていく。私たちは、それに抵抗するようにひたすらに抱き合った。
それでも、夜は終わりを迎える。