囚われのシンデレラ【完結】
「それで……西園寺さんには、あれから会った?」
その言葉に、私の動きも止まる。でも、すぐに木藤さんに笑みを向けた。
「いえ。会っていません」
今も、西園寺さんがどこで何をしているかは分からない。留学後、初めて日本に帰国した頃には、センチュリーの不祥事についてはもう報道されてはいなかった。
「やっぱり、そうなんだ。私も、全然――でも、」
その目が私を真っ直ぐに捕らえる。
「少し分かったことがある」
「……え?」
私の眼差しに、優しく微笑んだ。
「離婚すると聞いた時、最初は、どうして離婚までする必要があるのか疑問でならなかった。でもね。あの頃、毎日毎日、あることないことテレビや週刊誌で報道されているのを見て。ああ、そういうことなんだって。その時初めて、西園寺さんの意図していたことが分かったのよ」
私を労わるような、過去を振り返るような。複雑な表情を浮かべていた。
「当時の西園寺さんの周囲の様子。これまで、あなたには言わないでいた。他の人たちもそうだったんじゃない? 日本にいるあずささんの知り合いも、あなたに何も言わなかったはず」
その通りだ。
お母さんも、ソコロフ先生も。
そして、柊ちゃんも――。
「きっとあなたの音楽の邪魔になるし、何より西園寺さんがそれを望んでいないと思った。西園寺さんの強い思いを考えたら、他人が勝手なことをすべきじゃないって。でも、今のあなたなら、それすらもすべて音楽の糧に出来るよね? 今日の演奏を聴いて確信した」
そう言って、木藤さんは話し出した。
「西園寺さんが記者会見をした直後から、テレビでもかなり報道されるようになって。もちろん、最初は事件の本筋でね。でも、それと並行して、少しずつ、会社の事とは関係なく西園寺さんやそのご家族のことまでプライベートな内容を出されていた。本当のことならまだしも、明らかに嘘と分かるようなことまで。西園寺さん、もともと注目されていたし見栄えのする人だから余計にね。あの当時は、本当に大変だったと思う。私は、遠くでそれを知るだけだったけど、それだけでも想像に難くなかった」
ソコロフ先生が濁したことは、それだったのか。
その様子を思い浮かべただけで、身が切られる思いがする。
「自分の会社やお父様のことで大変なのに、しばらくの間、西園寺さんはまるで罪人かのようにマスコミに追いかけ回されていた。それを予測してあなたを手放したんだよね。それに、漆原という人の闇も暴かれて。そういう汚い世界に巻き込まないように、西園寺さんはあなたを守ったのね。だから、今のあなたの音がここにある――」
いつのまにか真剣になっていた面持ちが、私の真正面にあった。
「あずささんが経験して来たこと、西園寺さんの想い、そのすべてがあなたの音を作ったんだね。人の心を震わせ感動させる、深い深い音。誰にも真似できない音よ。必ず、西園寺さんに届くって信じてる。だいたい、西園寺さんが聴かずして誰が聴く?」
笑みの戻った表情に、私もふっと口元が緩んだ。