囚われのシンデレラ【完結】
木藤さんと共に、予選のあったホールへと戻る。既に、コンテスタントの多くがその場に集まっていた。
「この、発表を待つ時間が一番いやよね」
隣に立つ木藤さんが、思い出すように呟いた。
「私、コンクールって高校の時以来で。この雰囲気、コンクール独特のものですよね……」
落ち着かなくて、両手を握り合わせたり下ろしたり。時間が早く過ぎてほしいのか、過ぎてほしくないのか。自分でもどっちを願っているのか分からなくなる。
「――アズサ……っ!」
こちらへと駆け寄って来るマルクの姿が視界に入った。
「あ……。噂の彼」
「別に、本当に何でもありませんから」
木藤さんもマルクに気付いてニヤニヤと意味深な笑みを浮かべるから抗議する。
「アズサ――あっ、さっきの……」
私の前に立ったマルクが木藤さんを認識してぎこちなく小さく会釈すると、「どうも。初めまして」とロシア語で木藤さんが挨拶を返した。
「ロシア語……?」
目をぱちくりとさせるマルクに、木藤さんを紹介する。
「こちら、木藤瞳さん。私たちと同じ音楽院を卒業している先輩だよ」
そう伝えると、マルクが今度は満面の笑みを浮かべお互いに自己紹介をする。
「――それで、今日のあずささんの演奏、あなたはどう思った?」
挨拶もそこそこに、ここは音楽をやっている者同士、木藤さんがマルクにそう問いかけた。
「いつ聴いても思うけど、今日は特に、アズサのストイックさが音に表れて。本当に胸が締め付けられたよ。それはきっと審査員にも伝わってる。1次は間違いないと僕は思ってる」
マルクが思いのほか熱く語るから、私は面喰った。
「ストイック――なるほどね。その言葉がぴったりかも」
「そうなんだ。アズサは超ストイック。友達と遊んでいる姿なんて一度も見たことない。ランチの時間だってイヤホンして音楽を聴いているか、専門書見てるか。そのどちらか。授業も公開レッスンも、誰よりも一番前で聞いている」
私を間に挟みながら会話をする二人を、とりあえず黙って見ている。
「へぇ……。あずささんのこと、よく観察しているんだね」
「それは、まあ。アズサのそういうところを尊敬しているし、それに、僕はアズサの音もアズサ自身も大好きだからね」
躊躇うでもなく、ストレートに言うマルクに慌てる。
「ちょ、ちょっと、マルク! そういう誤解を招くような言葉は――」
「ほぉ……? バイオリンの音もあずささん自身も大好き……ねぇ。西園寺さんが聞いたらどう思うだろう。でも、あずささんの一番のファンはやっぱり西園寺さんだと思うのよ――」
「木藤さん……っ!」
「サイオンジ? 誰? アズサ、それ誰なの? アズサの特別な人? そんな人がいるなんて聞いてないよ!」
「それはもう、特別。ものすごく、特別過ぎるほどに特別です」
突然怒り出すマルクとなぜか対抗しようとする木藤さんの間であたふたとしていると、会場がざわめき出した。
「――お待たせいたしました。それでは、第2次予選に進まれる方を発表します」
ホールロビーの中央に、審査員の面々が登場した。