囚われのシンデレラ【完結】
舞台袖を降り、ホール脇の廊下へと出た時だった。一斉にカメラやマイクを向けられ、驚きのあまり手のひらで顔を隠してしまった。
「お話を聞かせてください。まず、2次のご自分の出来栄えは?」
「既に、会場ではあなたのたくさんのファンが生まれているようですが、ご自分の一番の演奏の魅力は何だと思われますか?」
矢継ぎ早に飛んで来る声に呆然とする。地元メディアだけではなく、いろんな国からやって来た記者たちに取り囲まれているのだと気付いた。
「2次予選に残れば、取材攻勢に遭うのも洗礼だと思って。誰が本選に残れるのか、もう、その話題でもちきりなんだから」
恐れおののいている私の肩を、伴奏者がぽんと叩いた。
あれよあれよという間に、控室のような部屋に連れて行かれ、たくさんのマイクを向けられた。慣れないながらもなんとか答えて行く中で、日本語が飛んで来た。
「進藤さんの音って、心に染みるんです。深い深い感情がほとばしって心を揺さぶられ胸を締め付ける。それでいて迫って来るような緊迫感もある。大きな宇宙に抱かれているような包容力と大きなスケール感もあって。一言では言い表せない、素晴らしい演奏でした」
「あ、ありがとうございます」
その、どこか興奮冷めやらぬ様子に少し面食らう。
「――そこで。30歳にして、国際コンクールどころか大きなコンクール自体初挑戦とのことですが、何があなたを決断させたんでしょうか」
私を真っ直ぐに見るそのインタビュアーに、改めて向き直る。
「私は、本当ならこの場に立てるような人間ではありませんでした。家庭の事情で音大を中退してバイオリンからも離れて。そんな私がもう一度バイオリンに向き合い、チャイコフスキーコンクールの舞台にまで立てるようになったのは、ある人のおかげなんです。その人との出会いがなければ、間違いなく私はここにはいません」
西園寺さんと細田さんが交わしていた会話が、今でもこの耳にこびりついている。
――俺は、愛する人に、辛い思いしかさせていないんですよ。俺と出会ったばかりに、あずさは――
西園寺さんの声が震えていた。
「チャイコフスキーコンクールなんて、子どもだったからこそ口に出来た、夢物語だと諦めていた。自分自身ですら諦めていた夢を、その人だけはずっと諦めずにいてくれた。だから私は、その人のためにバイオリンを弾きたいと思いました。その時、初めて音楽は意味を成し強くなったんだと思っています」
ただ一人のことを思い浮かべた。
「その方は、進藤さんにとってどういう方なのかお聞きしてもいいですか?」
「もしかして、恋人?」
他の記者からも問い掛けられる。私は、頭を横に振った。
「私の人生にとって、かけがえのない人です」
そう告げて、立ち上がった。