囚われのシンデレラ【完結】
「アズサ。よく頑張った」
出迎えてくれた先生は、満面の笑みだった。それが何よりの評価の証。
「なんとか、弾き切りました。先生の厳しいご指導のおかげです」
「すぐにファイナルだ。気を抜いたりするんじゃないぞ」
「あの、でも、まだ、結果は出ていませんが――」
「この私から学んでいるんだぞ? ここで落ちる気なのか?」
そう言って先生がニヤリとした。
先生と結果を待つためロビーへと向かうと、聞き覚えのある声がした。
「アズサ! 君は、本当に素晴らしい」
そう声を上げたかと思ったら、ソコロフ先生が私をいきなり抱きしめた。
「せ、せんせ、あのっ、髪がぐしゃぐしゃに……」
小さい子を褒めるみたいに髪をくしゃくしゃにしながら撫でるから、再会の喜びよりも抗議が先に立つ。
「なんだい、あの泣かせるserenadeは。私はもう何も言うことはないよ。結果なんてどうでもいい。君は立派な演奏家だ」
「ありがとうございます」
興奮するソコロフ先生にぺこりと頭を下げた。
「……本当に、感動したよ」
ソロコフ先生の後ろから木藤さんが顔を出して、少し目を赤くしながらにっこりとする。
「持っているものはすべて出せたと思います。あとは、結果が伴ってくれれば――」
「大丈夫。きっと、大丈夫よ」
その目が、優しく弓なりになった。
そして――。ロビーに審査員団が現れた。
「これから、ファイナルに進まれる6名の方を発表致します」
ぎゅっと握り拳を作る。他の人の名前が呼ばれるたびに、残りの枠が一つ一つ埋められて行く。
「――アズサ シンドウ」
――アズサ シンドウ。
「以上、6名です」
それは、確かに私の名前だった。
「あずささん……っ!」
「アズサ!」
「よくやった!」
ここまで無我夢中で。とにかく必死で。
この先どうなるのか。結果が出なかったらどうするのか――そんな不安を懸命に掻き消しながら、ただこの日のためだけにやって来た。
「ファイナルだよ! あずささん!」
「……はい」
木藤さんが、私の肩を揺さぶる。
実感。そんなもの全然湧かないけれど、ありがたくも目の前に舞台が用意された。
その舞台で私のすべてを解き放つために。
「ここでコンチェルトを弾くことだけを考えて来たから。最後の最後、何もかも全部曝け出しちゃいます!」
私が笑顔で答えると、木藤さんもニッと笑った。
「そうよ。こんな大切な時に、どこにいるかも分からない人にもちゃんと届くようにね!」
笑い合う私たちに、一人の女性が私に近付いて来た。
「――進藤さん、おめでとうございます」
その人は、私の前に演奏していた日本人女性だった。