囚われのシンデレラ【完結】
ファイナル出場者に与えられた控室で、鏡の前に立つ。
光沢のあるワインレッドのAラインのドレス。西園寺さんに買ってもらった3着のドレスの中から、大ホールで演奏するのにふさわしい華やかなデザインのものを選んだ。
姿勢を正し、大きく深呼吸をした。ここまで来たら、もう何を目指す必要もない。ただ、与えられた舞台で精一杯弾くだけだ。
「――アズサ、いいか?」
ドアをノックする音とともに、先生の声がした。
「はい。今、開けます」
現れた先生は、連日の集中レッスンで疲れているはずなのに見たこともないほどの笑顔だった。
「アズサ。今日は、もういいよ」
「え……?」
私の肩にそっと手を添えて、満面の笑みのままそう言った。
「順位なんてものは審査員が勝手につけるものだ。そんなものどうだっていい」
私の評価に関わるからちゃんとやれ――そうは言わなかった。
「最後の舞台は、自分の思うままに思い切りやれ」
「初めて、先生らしいことを言われました」
思わず笑ってしまう。
「――ソコロフが君を連れて来た時。正直、どうして君なのかと思った。この世界はどんどん早熟になっている。若く才能溢れる人間がそこら中に転がっているからな。でも、君の音を聴いて、音の中に収まりきらない君の強い思いに突き動かされた。音楽の原点を思い出したような気がしたよ。才能には情熱が伴っていないと、奏でられた音はただの音符になってしまう」
「先生……」
「君には君にしか出せない音と、思いを放って来なさい」
先生の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「はい」
この身体一つと、バイオリンを手にして。指揮者とともに、輝く舞台に向かう。