囚われのシンデレラ【完結】

もうどうしたって、自分を抑えることなんてできない。

「――西園寺さんに見てほしくて頑張ったんです。だから、もう、言ってもいいですか? 離れたくないって、ずっと一緒にいたいって、言っていい?」

しがみついていた首から顔を離し西園寺さんの顔を見つめる。

「あずさ……」

西園寺んの歪んだ表情に、離れていた2年の様々な思いが滲んでいる。

「あずさを傷付けたこと。今日までずっと自分を責めて来た」

その綺麗な目を見つめながら頭を振った。

「でも俺は、あずさに救われた」

もう、どれだけ泣けばいいんだろう――。

「俺には何もない。西園寺の名は悪い意味で世間に知れ渡っている。俺の親族が犯した罪も消えない。俺はその西園寺の人間だ」

その瞳の中にある微かな揺らぎがあるのを見逃さない。それでも西園寺さんは私を真っ直ぐに見つめてくれた。

「あずさに、苦労をかけてしまうだろう。でも――今度は我儘を言わせてくれ。この先の人生は、あずさといたい。もう離れていたくない」

大好きだった大きな手のひらが私の頬に触れ、互いの濡れた視線が重なる。

西園寺さんがそう言葉にするのに、どれだけの覚悟が必要なのか。それが分かるから喜びで心が震える。

「――出会った日から、俺の心にいるのはあずさだけだ」

その視線が、涙の膜を貫いて私に届く。

「西園寺さん――っ」

嬉し過ぎても人は胸が苦しくなるんだと知った。

「もう、何があっても、離れてあげません」
「ああ」
「苦労なんて、どうってことない。私、結構波瀾万丈の人生なんです。だから、たいていのことは平気です」

泣きながら冗談ぽく言うと、西園寺さんがようやく笑ってくれたみたいだ。

「そうだな。あずさは、強い人だって俺も知ってる」
「どんな苦労もどんと来いですよ。だって、あなたのおかげで私にはバイオリンがあるから。何があっても絶対に弾き続けるから大丈夫。西園寺さんといられることが、私の一番の幸せだから」
「あずさ……」

涙しているけれど、その笑みは心からのものだと分かる。それが何より嬉しい。

「やっぱり、私のバイオリンを一番近くで聴いてくれるのは、西園寺さんがいい」

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