囚われのシンデレラ【完結】


* *


 表彰式と、そして入賞者コンサートを終えた後、私たちは改めて二人で会った。

 今はパリで働いているという西園寺さんが、再びモスクワを訪れてくれた。

『センチュリーでやるべきことをすべて終えて俺の家族の状況も落ち着いた時、これからどうやって生きて行こうかと考えた。
やっぱり俺にはホテルしかないと思った。だからと言って日本企業のホテルで働く訳にもいかない。そんな時、若い頃働いていたパリのホテルが俺に声を掛けてくれたんだ』

そう教えてくれたのだ。


「3位、おめでとう。本当に頑張ったな」
「自分でも本当に信じられないんですけど。でも、ありがとうございます」

西園寺さんが私の手を取り手のひらを広げると、一つの指輪を載せた。

「これは……?」
「10年前のあの日、同じようにあずさのコンチェルトを聴くために会場に駆け付けた。あずさに会って、どうしても誓いたかった」

結婚した時にもらったものとは違う、一粒の石が真ん中にあしらわれたシンプルな指輪だった。

「あの時の俺が、何があってもあずさと生きていきたいと想いを託した指輪だ。何故だろうな。ずっと捨てられなかった」

ふっと、西園寺さんが笑う。

10年前のあの日、私に指輪を準備してくれていたんだ――。

洪水のように、これまでのことが全部渦巻いて。感情が激しく揺さぶられる。

「あの日渡せなかった指輪を、今、あずさに持っていてもらいたいんだ」

西園寺さんが大切そうに手のひらに触れ指輪を握らせる。私のその手を大きな手のひらでぎゅっと包み込んだ。

「今ここで誓わせてくれ。どれだけ苦労をかけたとしてとも、もう二度とこの手を離さない。そのかわり、苦労や困難の分だけあずさのそばで愛し続ける」
「はい」

西園寺さんが私の涙を指で拭い、初めてするみたいにそっと唇を重ねた。

「永遠に、俺の心はあずさのものだ」
「私の心も、西園寺さんのものです」

偶然出会ったあの日から、こうなることはきっと決まっていた。

一度目は偶然。
二度目は偶然が運命になった日。
そして、三度目は必然だ。

鍵を落としたあの時に、私は既に囚われていた。

苦しくても険しくても、愛さずにはいられないあなたに――。



【完】

< 364 / 365 >

この作品をシェア

pagetop