囚われのシンデレラ【完結】
「――まだ、ちゃんと片付け終わってなくてちらかってるけど。そこのダイニングで座ってて」
「は、はい……」
山手線内ど真ん中、高層マンションの最上階。ちらかってなどいない。むしろ、部屋が十分すぎるほどに広いのだから、ちらかりようなんてない。ダイニングとリビングが一続きになっていて、奥には東京の街並みが見渡せる大きな窓ガラス。ダークブラウンのフローリングがどこまでも続く。いったい何畳あるのか分からない。
「進藤さん、こっち」
「あ、は、はい……っ」
放心状態で見回していた私に、どこからか戻って来た西園寺さんが私を手招きする。おずおずとその方へと向かうと、ダイニングテーブルに既に料理が並んでいた。
「こ、れ……」
「俺が作った……って言えたらいいんだけど、取り寄せたものを並べただけ」
大きなダイニングテーブルには、名前の分からない洋食が並んでいた。
「恥ずかしい話だけど、料理はほとんどできなくて」
「いえ。準備してくださって、ありがとうございます。でも、だったらどうして――」
外で食べることも出来たはずだ。心に浮かんだ疑問を口にしてしまっていた。
「外で食べてようかとも思ったんだけど、時間節約のため」
「時間、節約……?」
「進藤さんが練習するための時間」
「練習……ですか?」
更に、驚く。
「この部屋、最上階で防音も問題ないから。いくら楽器を弾いても構わない。俺に会うことで進藤さんの練習時間を削らなくて済むと思って、ここに呼んだんだ」
「そうだったんですね……」
西園寺さんの部屋に行くのだと知った時、勝手に不安を覚えた自分を恥じる。
「ありがとうございます!」
その後ろめたさを消し去るため、勢いよく頭を下げた。
「それより、早く食べよう」
「はい」
西園寺さんが準備してくれた食事を済ませた後は、バイオリンだ。
西園寺さんに促されて、空と隣り合っているような窓際へと来た。そこには、グランドピアノが置いてあった。
「せっかくだから実家から運び出した。実家にあっても誰も弾かないから、もったいないし、それに――」
西園寺さんの身体が私に向く。
「進藤さんを見ていたら、俺も音楽をやりたくなったんだ。進藤さんに会えない時間は、俺も練習しようと思ってピアノを再開してみることにした」
西園寺さんがピアノを弾く――その姿を想像しただけでときめいてしまう。
「好きなように練習していいよ。俺はそこのソファで適当に過ごしてるから」
そう言って、私の頭をぽんぽんと撫でた。
「何から何まで、すみません」
「オーディション近いんだろ? 俺だって、進藤さんの舞台見たいんだ。協力しないとな」
ソファーへと向かう、すらりと均整の取れた後姿を見つめる。
私も、西園寺さんのために頑張りたい。バイオリンをすぐにかまえた。