囚われのシンデレラ【完結】
抱き上げられて寝室らしき部屋に運ばれると、ベッドに横たえられた。私を見下ろす西園寺さんの表情は、何かを耐えるように歪んで見える。
いつもきちんと整えられている髪が濡れていて、少し乱れていた。
「――怖い?」
ドクドクと恐ろしいほどに心臓が跳ねる。私の頬に、西園寺さんの手のひらがあてがわれ、その手の堪えるような動きに胸が締め付けられた。
「まだ怖いなら、今なら、止められる――」
「ううん。もう、怖くないです」
ぎゅっと自分の手を握りしめる。
「……少し、震えてる」
西園寺さんが、確かめるようにその手を優しく撫でた。
「き、緊張してるだけです。怖いわけじゃありません。だから――」
必死に吐き出した言葉を受け止めるように、ベッドと背中の間に腕を入り込ませ私を強く抱きしめた。
「大事にするから、全部、俺に委ねて」
「はい――」
大きな手のひらが私を包み込むように頬を這う。切なげに見つめられた後に、深く口づけられた。肩をさするような触れ方に、身体がびくんと反応して。
「……好きだ」
西園寺さんの吐息混じりの声が身体の奥底まで届いて、身体中が痺れて行く。畳み掛けるように、熱く濡れた唇が私の耳をなぞる。
「あ……っ」
「好きだ……あずさ」
初めて呼ばれた名前に、ドクンと身体が震えた。
「西園寺、さん―――」
触れた西園寺さんの肩が冷たい。さっきの雨が濡らしてしまったのか。私が肩に触れると、西園寺さんが素早く自分の白いシャツを脱ぎ去った。
初めて見る、西園寺さんの身体。その腕のなだらかな筋肉の曲線と張り詰めたような厚い胸板が、西園寺さんが大人の男の人なのだと改めて私に実感させる。迫りくる緊張とドキドキにどうにかなりそうで、懸命に呼吸を繰り返した。
「……大丈夫だ」
その肌はたまらなく熱いのに、私に触れる手はひどく優しい。
「嫌がることは絶対にしない。だから、安心して」
ベッドに投げ出されていた片方の手の中に、西園寺さんの指が滑り込んで来る。そして、ぎゅっと強く握り締めてくれた。その手が想いを伝えてくれるみたいだ。
頬から首筋へと滑る手のひらが、私のブラウスのボタンを外していく。少しずつ開かれていく素肌に、思わず身体が強張った。
入り込んで行く手のひらは決して性急なものじゃない。ゆっくり、私の呼吸を確かめるように触れる。
緊張と恥ずかしさで心臓は壊れそうなのに、手のひらの温かさが胸に伝わって、触れられていることに幸せを感じられる。
「……あずさを見ていたら、もう、どうにかなりそうだ」
「西園寺さん、私――」
手のひらと唇が私の身体をなぞるように這う。緊張の奥に何かが疼き始める感覚が芽生えて、怖くなる。
「……んっ――」
自分のこんな声、きいたことがない。慌てて唇に手を当てた。
「抑えるな。あずさの声、聴きたい」
「でも、恥ずかしい……っ」
口を押えていた手のひらを、西園寺さんによって奪われる。それが恥ずかしくて、思い切り顔を背けた。
「あずさが俺の手で感じている姿を見たいんだ。俺だけが知る、あずさの声を聴かせてくれ」
西園寺さんが”あずさ”と甘く呼ぶたびに、身体が蕩けそうになって仕方ない。
掴んだ私の手をそのまま自分の口へと運び、指一本一本に口付けていく。
少しも残らず私の緊張を取り除くように、果てしない愛撫が続いた。恥じらいも強張りも、いつの間にかどこかへと行ってしまって、もう西園寺さんの体温だけを感じていた。
「――辛かったら、すぐに言ってくれ。無理はさせないから」
苦しげに吐かれる短い呼吸に混じって、西園寺さんが、私の額に、頬にたくさんのキスをして。
「大丈夫です。最後まで、してください――」
「……あずさ」
とっくにほぐされていた身体の中心に、ゆっくりと息をひそめるように押し入って来る。
「あ……っ」
熱い圧迫感が、呼吸を乱していく。
「大丈夫、か? 辛いなら、もう――」
手を握りしめたまま気遣うように見つめられて、私は何度も頭を振った。
「いや、やめないで……っ。大丈夫だから」
十分すぎるほどに私の身体を緩めてくれていたから、我慢できないほどの痛みじゃない。それよりむしろ、誰よりも西園寺さんに近付けることが何より嬉しい。
好き――。
溢れ出る感情のままに、西園寺さんに腕を伸ばしていた。
「好き、です……っ」
「あずさ――」
そんな私の身体を、大切に扱うように抱きしめてくれた。