囚われのシンデレラ【完結】
それから、西園寺さんの私に対する接し方が変わった。これまでだって十分優しかったけれど、優しさだけじゃない甘さが垣間見えて、私を翻弄する。
「――あずさのバイオリンの音に惹かれたと言ったけど、本当は音だけじゃないんだ。あずさのバイオリンを弾く姿にも心を奪われた」
初めて抱かれた日から二週間後。西園寺さんのマンションで肌を重ねた時、ベッドの中で私を抱きしめ、そんなことを教えてくれた。
「あずさに初めて会った時は、少し元気すぎる女の子だなってくらいの印象だった」
「あ……エントランスでぶつかった時ですね」
あの時、バイオリンケースの鍵をなくした。それが、西園寺さんとの出会いだ。
「その子が、ラウンジでバイオリンを弾いていて。その姿に、視線を逸らせなくなった。演奏している姿が綺麗だと思った。かっこいいとも思った。出会った時のあずさとバイオリンを弾いているあずさのあまりの変わりように驚かされて。完全に釘づけにされたよ」
そう言うと、西園寺さんが何かを思い出したようにくすっと笑う。
「それからも、バイオリンを弾いていない時のあずさは、とにかく走ってたな。バイトしながら、ミント色のケースが飛んで行くのを何度も見かけたよ。『あ、また走ってる』って。そうやっていつも探していた時点で、俺はあずさに惹かれていたんだな」
私の髪を掬うように撫で、額に口付けた。
「……私、ずっと不思議でした。どうして西園寺さんみたいな人が私なんだろうって。それに、学生の私と違って、西園寺さんは社会に出てる。いくらでも大人で素敵な女性が周りにいると思うのに」
最近、そんなことを考えてしまう。
西園寺さんが働いているのは超高級ホテルだ。洗練された大人の女性がいるに違いないと想像してしまう。
そのたびに、まだ学生で大人の女とは程遠い自分を見たこともない女性と比べてしまうのだ。
「俺は、あずさだから好きになった。ひたすらに夢を追うあずさは、誰よりも綺麗だ。誰とも比べられないし比べる意味もない」
西園寺さんが私の目を覗き込む。その混じりけのない黒い瞳が、私を映す。
「俺は、この子に恋してる。これまでの自分がどんなだったか忘れるくらい。他の女は目に入らない」
そうやって、ストレートな言葉を私にぶつけるようになった。どんな表情で聞いていればいいのか分からなくなって、俯くしかない。
「分かった?」
「は、はい……」
「その返事は、まだし信じ切れていないって感じだな。ちゃんと分からないなら、分からせるまでだ」
そう言うと西園寺さんが、突然、私の身体を抱き上げた。
「ちょ、ちょっと、何ですか?!」
「あずさが分かったって言うまで、このままだ。いや、もっと恥ずかしいことをしようか」
横たわる西園寺さんの上に身体を載せられ、見下ろす形になる。
お互い何も着ていないから、とんでもなく恥ずかしい。
「分かりました。分かりましたから、下ろして――」
あたふたと暴れる私を、西園寺さんが突然抱きしめた。
「今度のコンサート、頑張れよ。何があっても絶対に行くから」
さっきまでのふざけていたのとは違う真剣な声に、私はその腕の中でじっとした。
「はい。精一杯、弾きます」
西園寺さんにもっともっと好きになってもらえるように。
私は、あなたがいるから、もっともっと頑張れる――。