囚われのシンデレラ【完結】
初めてのサロンコンサート。選ばれたからには、自分に出来る限りの演奏をしたい。
イメージを膨らませ、そのイメージに限りなく近付くためのテクニックを身に着ける。音楽は、テクニックだけでもダメ、テクニックがなくてもダメ。音楽性とテクニック、両方が合わさって初めて人の心を動かす演奏が出来る。
『進藤さんは、基本的な技術は備わってる。嫌味のない正確な演奏も出来る。音楽に対する情熱も伝わる。でも、その先の何かが足りない』
指導教授に初めて私のバイオリンを聴いてもらった時、そう言われた。
その先の何か――。
きっとそれは、練習すれば手に入れられるようなものじゃない。
見えない何かを掴むため、弦を押さえる指の感覚、弦を弓が滑る感覚、それらが自分の身体と一体化するまで弾き込んでいく。
(あずさのコンサート、来週の水曜日の夜だよな)
サロンコンサートを一週間後に控え、夜、西園寺さんと電話で話していた。
「はい。チケット、今度渡しに行きますね――」
(いいよ。必要ない)
「え……?」
必要ないという言葉に驚く。
(あずさのコンサートだ。自分でチケットを買いたかった。あずさからもらうんじゃなくて)
「じゃあ、西園寺さんがわざわざ手に入れてくれたんですか……?」
このサロンコンサートは大手楽器店と大学が共同で主催している。もちろん外部でもチケットは売りに出ているが、ほとんどの人が学内販売で手に入れている。
忙しい中、わざわざ購入元を調べて買ってくれたということか――。
(なんだか、自分のことみたいに誇らしい気持ちになって楽しかったよ)
そんな風に言ってもらえると、素直に嬉しい。
家族の他にもう一人、心から応援してくれている人がいる――。
「チケットを買ってくれた西園寺さんに損はさせません。いい演奏だったと思ってもらえるようにしてみせます!」
(楽しみにしてる)
そうして、サロンコンサートの本番、夏休み直前の7月中旬を迎えた。