囚われのシンデレラ【完結】


 当日、3人の出演者のうち、私は3番目の出番だった。席数は100。大手楽器店の銀座本店内にある、木の温もりに包まれた響きがとてもいいホールだ。

「あずさ、頑張ってよ」

奏音も聴きにくれていた。

「久しぶりに大勢の前で弾くから、緊張する」

そうなのだ。こうしてお客さんが入っているホールで演奏するのは、かなり久しぶりのこと。肩も腕もガチガチになっている。

「学部長も来てる。あずさの先生も聴きにきてくれてるんでしょう? ここは、勝負所だよ。演奏印象づけないとね」
「そんなこと言われると余計緊張するんですけど」
「ホント、自分の出番がないコンサートってなんて気が楽なんだろう」

ただただ楽しそうにしている奏音とは反対に、控室の鏡に映る自分の引きつった顔にげんなりする。髪はアップにしてまとめた。ただ一着持っている本番用の衣装は、深紅の背中の開いたドレスだ。私の好みで、裾はあまり広がらないストレートラインのいたってシンプルなデザイン。

「白い肌に赤が映えるね。凄く、綺麗」
「あ、ありがと――」
「じゃあ、客席に行ってるねー。がんばれー」

呑気に手を振って、奏音が控室から出て行った。

学部長も来てる、先生も――。

Bオケに落ちたことを、先生ががっかりしていることは分かっている。ここは絶対に、挽回しなくちゃいけない――。

大きく深呼吸をしていると、鏡の前にある化粧台に置いたスマホが振動した。

【仕事で少し到着が遅れそうだけど、あずさの出番までには必ず間に合わせるから】

西園寺さんからのメッセージだった。

【あずさの音は魅力的だよ。あずさ、そのものの音だ。その音を舞台で聴けるのを楽しみにしてるから】

――あずさそのものの音。

ただ、自分の音を出すことだけを考えればいい。
誰かを想って、自分の音を出す。心に思うことはそれだけでいい。他の余計な雑念はいらない。

ありがとう、西園寺さん――。

スマホを胸に当て握りしめる。
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