囚われのシンデレラ【完結】
舞台を降りて伴奏者の方に挨拶をすると、すぐにロビーへと向かった。ドレスのままホール脇の廊下を走り、ホールエントランスへと急ぐ。その時、会場から出て来た先生と出くわした。
「進藤さん」
「先生、今日は来てくださってありがとうございます――」
西園寺さんのことが気になりつつ、すぐに真正面に向き直り頭を下げた。そうしたら、興奮気味に先生が私の肩を叩いた。
「あなたの今日の演奏、素晴らしかった。こんな演奏が出来るんじゃない! 時間を忘れて聴き入った」
「あ、ありがとうございます……っ」
その言葉が嬉しくて、何度も頭を下げた。
「今後のこともいろいろ考えないとね。また、ゆっくり今度相談しましょう。じゃあね」
「よろしくお願いします。ありがとうございました」
帰って行く先生を見送っていると、奏音に背後から飛びつかれた。
「凄い、凄いよ! あの音、何なの? あの演奏、何!」
私の首に腕を回し飛び跳ねる。
「いつも走り回ってる元気なあずさからは考えられない、大人の演奏……って言うか、何と言うか、官能的な感じでドキドキしちゃった」
「か、官能的?」
その言葉にぽっと頬が熱くなる。
「女の私でも妙にドキドキしちゃって、たまらなかった。どうしちゃったの――」
「西園寺さん……っ!」
きょろきょろとあたりを見回しながら歩いている西園寺さんが視界に入り、思わず声を上げてしまった。
「あずさ」
その彷徨っていた視線が私を捕らえた。
「え? さいおんじ……?」
目の前の奏音がキョトンとした目を私に向けて来て、途端に焦り出す。
「あ、あの、えっと――」
ここはどうするべきか――。
笑顔で私の元へと駆け付けてくれた西園寺さんが、奏音の存在に気付く。
「話し中に、ごめんな」
「い、いえ」
奏音が私と西園寺さんを交互に見つめ、私の腕を突いて来る。
”どなた?”
そんな視線だ。
「えっと、こちらは――」
私が紹介しようとすると、西園寺さんが一歩前へと出た。
「はじめまして、西園寺と申します。あずささんとお付き合いさせてもらっています」
「えっ? あ、ど、どうも……」
茫然と西園寺さんを見上げる奏音に、躊躇いなくそう自己紹介している。
「こちら私の友人の村松奏音さん。同じ大学の同級生なんです」
私の声に、奏音が我にかえったように挨拶した。
「私もバイオリンを専攻していて、あずさとは仲良くさせてもらってます」
西園寺さんが「彼女のこと、よろしくお願いします」と笑顔を見せると、私に視線を移した。
「あずさ、俺はロビーでのんびり待っているから、時間は気にしなくていいよ。じゃあ、俺は失礼します」
もう一度奏音に身体を向け小さく会釈して、西園寺さんは私たちの前から立ち去った。
「ちょ……」
私と一緒になって西園寺さんを見送っていた奏音が、突然スイッチが入ったみたいに声を張り上げる。
「お付き合い? 何、それ。私、全然知らないんだけど!」
「ご、ごめん――」
「ていうより、あのイケメンさんは何者なの? いつの間に! どこで知り合ったの?」
矢継ぎ早に繰り出される質問に、声を挟めない。
「何歳くらいの人? 社会人だよね? びっくりするくらいかっこいいんだけど」
いつもの奏音らしくないはしゃぎぶりに、身をのけぞらせる。
「ごめん。今度ゆっくり話す」
ここで詳しく話し出す訳にもいかない。
「わ、分かった。そうだね。あの方待たせてるもんね。じゃあ、今度。絶対だよ!」
そう言って、奏音は帰って行った。それを見届けるとすぐに、西園寺さんの姿を探す。
どこで、待ってるんだろう――。
とにかく早く会いたくて、ロビーを歩き回った。
「――っ」
そんな私の腕を誰かが強く掴み、ロビー横の階段の踊り場へと引っ張られる。それに驚いて後ろを振り向くと、私の腕を掴んでいたのは西園寺さんだった。