囚われのシンデレラ【完結】
「――今一緒にいた人はあずさのお母さん?」
「あっ、は、はい」
銀座の大通りに面する歩道に立っていた西園寺さんが、私の元へと歩いて来る。
「来られないって言ってたんですけど、急遽来ることが出来たみたいで」
「だったら、きちんと挨拶をしておけば良かった」
「い、いえ! 挨拶だなんて、そんなこと」
私が大きく手を横に振ると、西園寺さんが真面目な顔で私を見下ろした。
「どうして? あずさは俺の大切な人だ。あずさの親御さんに、心配はさせたくない」
その言葉に、ただ胸がじんとする。
「そんな風に考えてくださって、ありがとうございます」
「当然のことだ。いつか、付き合っていること、きちんと挨拶がしたい」
西園寺さんはいつだって真っ直ぐで、誠実だ。優しく包み込むような眼差しが、いつでも私を安心させる。
「じゃあ、打ち上げに行こうか」
そう言って連れて来てくれた場所は、高層ビルの最上階にある会員制のようなバーだった。恐ろしく大人な空間に尻込みする。
「緊張しなくても大丈夫。ここは、他の客とほとんど顔を合わせなくて済むようになっているから」
その言葉通り、店員さんに案内された場所は、天井まで続く窓ガラス向けて二人がけのソファーが置かれている個室だった。
「……景色が凄いですね」
目の前に、どんと大きな東京タワーがある。
こんな至近距離で東京タワーを見たことなんてない。
「座ろう」
「は、はい」
窓にへばりつくみたいに見てしまう。
「あずさは二十歳になったから、酒が飲めるな。飲んでみたことある?」
ソファーに隣り合って座り、西園寺さんと向き合う。
「いえ。まだそんな機会はなくて」
「それは良かった」
何故か嬉しそうな西園寺さんを見つめる。
「あずさが酒を飲んだらどうなるのか。他の人の前で飲む前に、俺が最初に確かめたいと思ってた」
長い指が、私の頬を撫でた。
「酒に弱いと分かったら、他の男の前で飲むのを禁止にする」
「そ、そういうことですか……」
西園寺さんの整った顔が、甘いものになる。
「俺の心配は、増えて行くばかりだな」
「心配なんて、する必要ないです」
咄嗟に反論すると、どこか弱ったように笑った。
「今日、あずさの許可もなくあずさの友達に恋人だと言ったのは、牽制するためだ」
「何の牽制ですか?」
「大学の男たちに、あずさには恋人がいると分からせたい。親しい友人に伝えておけば、広めてくれるかもしれない」
「西園寺さん、そんなことを考えたんですか?」
驚く私の頬を、西園寺さんの片方の手のひらが包み込む。
「そんな子供じみた牽制をしてしまうほど、あずさは魅力的だ。世の中の男全員に牽制したいくらいだよ。あの、幼馴染みにも……」
何故か口籠って目を伏せた西園寺さんの顔を覗き込む。
「彼が、どうかしたんですか?」
「あぁ、いや、何でもないよ。とにかく、それだけあずさに惚れてるってことだ」
愛おしそうに見つめられれば、今度は私が目を伏せる番だ。いつまで経っても、その眼差しに慣れることは出来ない。