囚われのシンデレラ【完結】
「ありがとうございますっっっっ!」
身体中から力が抜け落ちる。くたりと床に座り込んだ。
初日から演奏できずにクビになったら――。
そう思いそうになるのを必死に押し留め、鍵が見つかることだけを考えた。でも、本当はもう生きた心地がしていなかった。
「これ、バイオリンケースの鍵で。これがなかったら、大変なことになるところでした。本当にありがとうございます」
受け取ったピンク色の巾着袋を握りしめて、何度も頭を下げる。
「ぶつかった後、床に落ちていた。とにかく渡せて良かった」
その声に、改めて顔を上げる。そこにいたのは、ここでぶつかったその人だった。
しゃがみ込む私に合わせる位置にあるその眼差しに、一瞬目を奪われる。さっきはその人の顔をじっくり見る余裕なんてまるでなかった。ただ鋭い眼差しにしか意識が向かなかった。
清潔感溢れる染色なんてまるでしていない漆黒の短髪。真っ直ぐな眉に奥二重の切れ長の目は、どちらも意志の強そうなもので。整った顔立ちと私の目の前で膝を下ろす姿から滲み出る気品みたいなものに、言葉を失う。
うちの音大にも育ちの良い子はたくさんいる。そういう人たちは見慣れている。それでも、この人の醸し出す雰囲気は圧倒的だった。
「……あ、ありがとうございます。本当に助かりました。すみません、これから仕事なので失礼します」
慌てて立ち上がり、深く頭を下げる。
時間がない。急がないと――。
この手の中に戻って来た鍵を握りしめて、控室へと急いだ。