囚われのシンデレラ【完結】
あの人のおかげで、なんとか演奏開始に間に合わせることが出来た。
どこかの国の王子みたいな人だったな――。
王子なんて見たこともないのにそんなことを思った。容姿が麗しい男の人を間近で見たことはない。私の人生経験では、そんな言葉しか思いつかなかった。
他人事のように珍しいものを見た感覚になった後は、もう既に心は演奏のことに向かっていた。
着て来たジーンズから、ホテル側が支給してくれた黒いロングドレスに着替え、素早く身なりを整える。鍵を探しに行った時間の分だけ時間がなくなったせいで、前髪を整えるのが精一杯だった。
一緒に演奏するピアノ担当とチェロ担当の女性と手短に自己紹介をし合ったあと、音合わせをした。いよいよラウンジへと向かう。
「――鍵、間に合って良かったですね」
チェロ担当の女性が私に耳打ちした。
「お騒がせしてすみませんでした」
小さくお詫びをする。
「分かります。私も、何回かやっちゃったことありますから。本当に焦りますよね」
「寿命が10年くらい縮まりました」
潜めた声でそう答えた。