囚われのシンデレラ【完結】

「佳孝は、本当に君に惚れてるんだな。今日、あいつの君に向ける眼差しを目の当たりにして、よく分かった。完全に恋に落ちた男の目だ」

コーヒーを口にしてカップを置くと、斎藤さんが私に顔を向けた。

「佳孝はさ、厳しく育てられてはいるけど、ご両親から十分な愛情も受けているから、すれたところも曲がったところもない。ある意味、ピュアで真っ直ぐな男なんだ。君に対しても決して駆け引きみたいなことはしないだろう?」

ゆっくりと諭すような口調で語られる言葉をじっと聞いていた。西園寺さんの真っ直ぐさは、一緒にいる中で私も実感している。

「佳孝は、その真っ直ぐさそのままに愛せる人に出会った。それが君だった」

涼しげな目が閉じられて、そのせいで目元が陰る。

「……以前、斎藤さんが言っていましたよね。西園寺さんのような人は、その立場にふさわしい人と付き合うべきだって」

西園寺さんと付き合うようになって、そのことを考えることはない。二人でいる時は、二人だけの時間だからだ。でも、考えなくて済んでいるだけで、心の中から消えたわけではない。

西園寺さんの抱えているもの。この先のことーー。

心の奥底に常に横たわっている。ただそれが、学生の私にとってあまりに遠く現実味のないものなだけだ。

「それは、不埒な女たちを牽制して排除するために言っていることだよ。でも、君は違うだろ? 佳孝の外見とバックグラウンドに惹かれて近寄って来たような女じゃない。佳孝自身を好きになってくれたんだよね?」
「当然です!」

思わず身を乗り出して声を上げてしまった。そんな私を見て、斎藤さんがくすりと笑った。

「あいつのことを本当に好きになってくれる子と出会って、その子のことを心から愛してる。それなら、応援しない理由なんてない。いろいろ大変なこともあるかもしれないけど、君はこれからも佳孝のことをちゃんと想ってあげて」
「私にとって西園寺さんは、かけがえのない大切な人です」

私に、たくさんの初めての感情を教えてくれた人だ。

「それを聞いて安心した。もう何年も前のことだけどね、佳孝が付き合っていた子が二股を掛けていたことがあって。彼女は、完全に佳孝のステイタス目当てだった。それを佳孝は知ってしまった。彼女の清楚な感じから、まったくそんなこと想像出来なくてさ。ホント、女って怖いよな」

そんなことがあったんだ……。

西園寺さんの過去。これまであまり気にしたことはなかった。気にする余地がないほどに大切にしてもらって来た。

「あ……でも、安心して。そんなに深い付き合いだったわけじゃないから。その子から告白されてさ、あまりに女に関心なかった佳孝に、仲間が強引にけしかけて付き合い出したようなものだから」

私の表情から何かを察したのだろうか。斎藤さんが私に笑顔を向けた。

「佳孝は、平気で嘘をつく人間がいること、自分という人間には余計なフィルターがかかってしまうということに、何よりショックを受けたみたいだ。どうしても、ああいう身分の人間は、自分自身を見てもらうことが難しいからね。それからは佳孝自身も、女に対して更に慎重になった。それなのに、君には慎重になれなかったんだな。それだけ強く惹かれたってことだ」

そう言うと、私の心の奥底を覗き込むかのように、じっと見つめて来た。
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