囚われのシンデレラ【完結】


 誰より先に報告したいのは、もちろん西園寺さんだ。

「……本当に? あの曲、あずさがやれるのか?」

西園寺さんのマンションに直接訪ねて報告した。

「そうなんです。もう、本当に夢みたいで」
「夢じゃないだろ。この前のコンサートでの演奏が本当に良かったからこそ掴んだものだ。あずさの実力だ」

西園寺さんが私の肩を掴み、興奮したように目を見開く。

「オーケストラとの演奏なんて初めてですけど、何が何でも頑張ります。こんな機会、何度もない。そんな舞台を与えられたことに感謝して、死ぬ気で頑張ります」
「俺にはよく分からないんだけど、大切な本番がある前に、特別に誰かに教えを乞うようなことはしなくていいのか?」

西園寺さんが私の肩を掴んだまま、ソファーへと促し座らせてくれる。その隣に西園寺さんも腰掛けた。

「……今日、教授にも言われたんです。本当はマスタークラスを受講出来たらいいんだけどって」
「マスタークラス?」
「マスタークラスって言うのは、著名な演奏家にレッスンをしてもらうものなんです。でも、当然、費用がかかります」

外国の有名な音楽院や音楽大学で開校しているものが多く、春休みや夏休み、たくさんの学生がマスタークラスを受講しに外国に行っている。でも、私はこれまで一度も参加したことはない。数十万円という費用がかかるのだ。さすがにそう気軽に参加出来るものでもない。

学内で開催されるマスタークラスもあるが、それも、授業料とは別に追加で費用がかかる。

「あずさ、俺が――」
「でも、それはもういいんです。不可能なものにいつまでも悩んでいても仕方がないので。私の教授も最大限協力してくれると言っています」

心配そうに覗き込む西園寺さんに、明るく伝える。

「自分の出来る範囲で頑張りたいんです。それに私、西園寺さんに出会ってからいいことばかりです。Aオケを落ちたはずなのに、自分の演奏が向上してる。近くで西園寺さんが私を応援し続けてくれたから。西園寺さんが私のバイオリン信じてくれているから」

自分では弱気になってしまいそうな時でも、西園寺さんが私の演奏をいつだって肯定してくれた。夢は叶うと、誰より信じてくれている。

「あずさ……」

私の心を大きく変えてくれた。西園寺さんに恋をして、私の中にいろんな感情が芽生えた。それが、他のどんなものとも比べものにならないほどに私の演奏を変えたのだ。


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