囚われのシンデレラ【完結】


 それから間もなくのことだった。

【しばらく仕事が立て込んで、会える時間を取れそうにないんだ。ごめん。コンチェルトの練習、頑張れよ】

そんなメッセージが西園寺さんから届いた。

10月からは本部勤務になると言っていたのを思い出す。新しい環境で違う仕事をするようになるのだから、慣れるまでは大変なのかもしれない――。

最初のうちはそう思っていた。

 でも、これまでこまめにやり取りをしていたのが、西園寺さんからの連絡がぱったりと途絶えた。

 会社というところで働いたことがない私には、その大変さを想像することが出来ない。
 何か、大きなトラブルでも起きたのだろうか。それに追われているのだとしたら、私になんて構っている暇があるわけがない。邪魔になるようなことだけはしちゃいけない――そう思うと、電話をかけるのも躊躇われた。

でも、メッセージなら迷惑にはならないかも……。

スマホを手に取る。

【お仕事、大変ですか? 無理をしていないか心配です。身体には気を付けてくださいね】

こういう時、どう声を掛ければ相手の負担にならないのか。そんなことを思い悩んでみても、ベストな回答が浮かばない。それでも、心配な気持ちは大きくなるばかりだ。思い切って、そのまま送信した。

 時計を見れば、23時を過ぎたところだった。

まだ、仕事をしているかもしれない――。

そう思っていたら、手にしていたスマホがすぐに振動した。

【連絡が出来ず、心配をかけて悪かった。俺は大丈夫だ。仕事が片付いて落ち着いたら、必ず連絡する。あずさは、コンチェルトに向けて精一杯頑張ってくれ。俺も、あずさのコンチェルトを聴きに行ける日を励みに乗り切るよ】

その次の一文に、スクロールする手が止まる。

【あずさも頑張ってる。そう思えることで、俺も頑張れる】

西園寺さんがそれを励みにしてくれているのなら、私も精一杯頑張るだけだ。西園寺さんに、最高の演奏を届けたい。

【私も、精一杯頑張ります。
でも、もし、私で何かできることがあれば、言ってください。いつでも、西園寺さんを想っています】

最後の文は送るのに勇気が必要だった。でも、会えないでいるからこそ知っていてほしかった。

【ありがとう。俺も、いつもあずさを応援してる】

私は私のするべきことを精一杯頑張ろう――。

毎日、個人練習、レッスンにと明け暮れた。



「――あずさ、相変わらず、これからバイト?」

大学内で、久しぶりに奏音に会った。サロンコンサートに来てくれて、その後、西園寺さんのことを根掘り葉掘り聞かれた時に会った以来だ。

「うん、そう」

授業を終えて、コンビニへと向かう途中だった。

「Bオケから今度の定演のソリストにまで選ばれたのに、それでもまだバイトを優先させてるの?」
「奏音……?」

いつもとは違う、どこか冷たい眼差しに言葉が途切れる。

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