囚われのシンデレラ【完結】
「Aオケの人が、あずさをどういう風に見てるか分かる? 『どうして』って思ってる。そういう人たちを差し置いて、その人たちの前で演奏するんだってこと忘れないで」
私に向けられた眼差しは、冷たさだけじゃない。その瞳の奥に怒りのようなものを感じた。
「恋人と楽しんで、バイトもして、それでソリスト? みんなが死ぬ気で目指してるソリストの座を、そんな中途半端な気持ちでつとめないで……」
奏音は、そんな風に思っていた――。
「……あっ、ごめん。私、何言ってるんだろう。ごめん、今の忘れて」
奏音が私から顔を背けたのを見て、慌てて口を開く。
「う、ううん。でも、私も中途半端な気持ちで向き合ってるわけじゃないから。じゃあ、またね」
無理やりに笑顔を作って、奏音の前から立ち去る。
Aオケの人をバックにして、私が演奏するのだ。それがどういうことか。Aオケに所属している奏音がどう思うのか。そういう人たちの思いを背にして、私はバイオリンを弾くんだ。
でも――。
私は私で力の限り演奏する。自分の夢に近付くためにベストを尽くす。私が考えるべきことはそれだけだ。
気付くと、コンサート本番まであと一か月となっていた。
毎日、必死だった。そんな中で、西園寺さんとも未だ会えないでいた。メッセージのやり取りは時折していたけれど、西園寺さんは”大丈夫だ”と繰り返すばかりだった。
「最近、あの外車見ねーけど。どうしたんだよ」
バイト帰り、駅から家まで歩いていると、背後から柊ちゃんに声を掛けられた。
「何だよ、その冴えない顔。なんかあったのか? まさか、やっぱりもう捨てられたとか」
冗談なのか本気なのか分からない、曖昧な表情で私にそんなことを言って来た。
「違います。西園寺さん、今、仕事が忙しいみたいで。それだけ」
「ふーん。仕事が忙しいねぇ……」
私の隣に来ると、ひとり言のようにぶつぶつ言い出す。
「女に飽きた時の、男の常套句じゃねーの」
「バカなこと言わないで。西園寺さんはそんな人じゃない。それより、私は西園寺さんの身体の方が心配」
メッセージの返信が来るのは、いつも深夜近くだった。かなり無理をしているのではないか。
私は、いつも西園寺さんに守られて来た。でも、西園寺さんは私には頼ろうとは思ってくれない。それもこれも全部、私が学生で頼りないから。
こういう時、私では何の力にもなってあげられないのか――。
「おまえ、ホント、どれだけ――」
着ていたパーカーのポケットに入れていたスマホが、私に知らせるように振動する。急いでそれを引っ張り出した。
「あ……っ! 西園寺さんからだ。ごめんっ」
メッセージじゃない。電話だ。西園寺さんから電話が来るのなんて、最後に会った時以来のことだ。柊ちゃんに背を向け、素早くスマホを耳にあてた。