囚われのシンデレラ【完結】
「西園寺さん……っ!」
つい、前のめりに声を張り上げてしまう。こうして電話がかかって来て、どれだけ西園寺さんの声を聞きたかったのかと思い知る。
(あずさ、ずっと連絡出来なくて悪かった)
「い、いえ。お仕事、大変だったんですよね? もう大丈夫なんですか? 私――」
(――あずさ)
「は、い……」
なんとくいつもと違う声に、心がざわざわとする。手にしているスマホをぎゅっと握りしめた。
(あずさのバイオリンが聴きたい。あずさに……)
スマホ越しの声だけしか分からないのに、その声が何かを訴えているような気がして。静かな住宅街の中で、少しの音も聞き漏らさまいと耳を澄ませる。
(あずさに、会いたい)
――会いたい。
西園寺さんから吐き出されたその言葉に、一瞬呼吸が止まる。
(……って、俺、何を言ってるんだろうな。ごめん、こんな時間に変なことを言って。今のは聞かなかったことにしてくれ。ごめん――)
そう言うと、その通話は切れた。通話が切れて電子音が流れても、そのまますぐには動けなかった。
西園寺さんは、これまで、こんな風にすぐに会いたいと言ったことはない。いつも、私の事情を考えて私の状況に合わせてくれて来た。
どこか苦しそうだった声――。
西園寺さんの声が耳にこびりつく。
握りしめたスマホをポケットに突っ込む。爪先に力を込め、家とは反対の方へと足を向けた。
「お、おいっ、こんな時間からどこに行くんだよっ」
背後から柊ちゃんの声がする。
その声には振り返らず、そのまま走り出した。
西園寺さん――。
今が何時だとか。明日がどうだとか。そんなこと、頭から全部消え去って。
夜が深まり始める街を、私はただ走っていた。