囚われのシンデレラ【完結】
「あずさ――」
苦しそうに漏れ出た、私の名前を呼ぶ声。
「何かあったんですか? 私じゃ何の力にもなれないかもしれないけど、でも、西園寺さんが辛い時にそばにいることならできます。だから――」
腕の中でくるりと身体を反転し、背中を抱きしめると、激しく唇を塞がれた。
重ねられた瞬間冷たかった唇が、あっという間に熱くなる。すぐにこじ開けられ、熱く濡れた舌が荒っぽく口内を蠢いた。
言葉は何もないのに、そのキスが私に嫌というほど西園寺さんの苦しさを伝えて来る。
「あずさ……っ」
大きい手のひらが私の頭を鷲掴み、より深く唇を絡ませた。
ぴたりとくっつく西園寺さんの胸から激しい鼓動が伝わる。唇を伝う吐息、手のひらの感触、そのどれもが私を切なくさせて。すがりつくみたいに西園寺さんの腕を強く掴んだ。
「西園寺さん――」
その腕を掴まれ、ソファへと押し倒された。
見上げた先にあった西園寺さんの表情に、胸に鋭いものが刺さったように痛む。
夜景の明かりがその表情に陰をさす。
切なげに歪んだ眼差しはすぐに私から逸らされ、西園寺さんがネクタイを乱暴に引き抜いた。それと同時に、大きな身体が私を覆い尽す。
「あずさ。あずさ――」
何も言わない代わりに、私の名前ばかりを呼ぶ。きつく私の肩を抱き、腰を引き寄せた。
「西園寺さん――」
「好きだ。あずさ……っ」
どうして、そんな顔をしているの――?
久しぶりにこうして触れ合っているのに、胸に不安ばかりが押し寄せる。
何がそんなに西園寺さんを苦しめているの――?
こんな西園寺さんを見たことがなくてただ苦しくなる。
いつも、大切に私を労わるように、優しく包み込むみたいに抱かれていた。
それなのに、目の前にいる西園寺さんは、我を忘れたみたいに苦しそうに私を抱く。その姿が私の胸を締め上げて、切なくさせる。
「離したくない。俺のそばに、いてくれ。ずっと――」
お互いに着乱れた服のままで、激しく身体を重ねた。胸を覆う焦燥感が羞恥心を捨てさせ、ただ感情のままに西園寺さんを求めた。
無我夢中で抱き合った身体は、酷く気怠い。
何も言葉に出来なかったのだとしても、確かに西園寺さんは私を求めてくれていた。疲れ切った顔で目を閉じている西園寺さんの目の下にある深い影を、そっとなぞる。
ずっと、眠れていなかったのだろうか――。
ゆっくりと身体を起こし、私の身体に絡まる西園寺さんの腕から逃れる。寝室から毛布を取り、それをソファに横たわる西園寺さんの身体に掛けた。
そして、乱れた髪をひとまとめにし、マンションを後にした。