囚われのシンデレラ【完結】
始発電車に乗り帰宅した。
家族を起こさないようにとそっと玄関のドアを開けたつもりだったが、すぐにお母さんが出て来た。
「……遅くなって、ごめん」
西園寺さんのマンションに向かう途中に母にメールは送った。でも、朝帰りなんてしたのは初めてのことだ。どうしてもその顔を見られない。
「まあ、二十歳を超えた大人だし? そんなにうるさく言うつもりはないけど。でも、自分のことはちゃんと自分で守りなさいよ」
「分かってる」
母の横をすり抜けた。
それからシャワーを浴び、すぐに大学へと向かった。まだ身体に残る西園寺さんに抱かれた跡が、私の胸を疼かせた。
電車の窓にもたれかかり目を閉じる。
西園寺さんに何があったのか。結局、それを知ることは出来なかった。それでも、西園寺さんの身に何かが起きているのは確かだ。
私が西園寺さんのために出来ることはなんなのだろう――。
ジャケットの中のスマホが振動した。混み合う電車の中でなんとかそれを取り出し、受信していたメッセージを開く。
【昨晩は、本当に悪かった。あずさに無理をさせてしまった】
西園寺さんからのメッセージ。それは機械の文字でしかないのに、その味気ない文字を読んだだけで涙が込み上げる。
【遅くに来させたあげく、送ることもできなかった。あんな姿を見せて、あずさを不安にさせてしまっただろう。
でも、あずさが来てくれたこと、バイオリンを聴かせてくれたことに、俺は本当に救われたよ。ありがとう。
時期が来たら必ずきちんと話をするから、俺のことを信じていてほしい】
スマホを自分の胸に当てる。
【あずさは、今はコンチェルトを成功させることだけを考えて】
話をしてくれると言った。だったら、私はそれまで信じて待つだけだ。
【コンチェルト、必ず聴きにいくから、頑張れ】
西園寺さんは、どんな時でも私を応援してくれる。
だから、私も西園寺さんのことを信じてただ頑張ろう――。
手の中にあるスマホを強く握り締めた。
それから二日後。西園寺さんのマンションに大切なプリントを置いて来てしまったことに気付いた。ソファの下にでも入り込んでしまったのかもしれない。
日中は西園寺さんは当然仕事中だ。
【忘れ物をしてしまったみたいなので、西園寺さんの留守中にお邪魔させていただきます】
そうメッセージで一言断りを入れて、マンションに向かった。
いくら合鍵をもらっているからと言って、留守中に鍵を開けて部屋に入るのは緊張する。
しんとした部屋に足を踏み入れる。誰がいるわけでもないのに、どうしても摺り足になってしまった。落ち着かないから、素早くソファの元へと行ってしゃがみ込んだ。
やっぱり、あった――。
手を差し入れ、一枚の紙を取り出す。ホッとしてバッグの中にしまった。
「――誰っ?」
「え……っ?」
突然聞こえた誰かの声に、心臓が止まりそうになる。
振り返った先にいたのは、一人の女性だった。