囚われのシンデレラ【完結】
「お願いです。私たち家族を苦しめないでください。何より、お兄ちゃんを苦しめないであげて。お願いします」
私の問いには答えず、妹さんが突然私に頭を下げた。その姿に動揺する。
「頭を上げてください。私が苦しめてるとはどういうことですか? 西園寺さん、今、どういう状況なんでしょうか」
分からない。西園寺さんがあんなにも苦しそうにしていたのは、私が原因なのか。
「兄が苦しんでいる姿を見ているのは辛いんです。お願いします」
「教えてください。一体――」
頭を下げ続ける妹さんの傍に近寄った。妹さんが顔を上げると、その目に涙が滲んでいるのに気付いて言葉を失う。
「突然、一方的にすみません。失礼を、許してください」
妹さんが、大粒の涙を拭う。
「あなたに勝手にこんなことを言ったのが兄に知られたら、私、兄に嫌われてしまいます。兄には内緒でここに勝手に来ました。どうか、こうしてここであなたに会ったこと、兄には内緒にしておいてくれませんか? お願いします!」
妹さんの華奢な指が私の腕を強く掴む。
「約束していただけますか?」
涙を流す目で必死にお願いされれば、頭を縦に振るしかなかった。
マンションを後にして、立ち止まる。
激しく混乱する心を一度落ち着けたくても、妹さんに言われた言葉がぐるぐると脳内を駆け巡って少しも落ち着けない。
深夜に西園寺さんの部屋で見た姿を思い出しただけで、胸が締め付けられる。
何も私に言えないのは、私が原因だから――。
そう思えば辻褄があう。
でも、それが一体何なのか分からない。衝動のままにスマホを手にして、その手を止めた。
妹さんにあんな風にお願いされて、どう西園寺さんに聞けるという――?
スマホを手にした手を、力なくだらりと垂らす。
西園寺さん、今、何を思っていますか――?
ぽつりと冷たい粒が頬に当たる。それに気付いた次の瞬間には、ざあっと辺りを雨で覆った。
秋の冷たい雨が、路面をあっという間に色濃くしていく。
考えることは西園寺さんのことばかりで、コンビニでのアルバイトではミスばかりしてしまった。
私が一番大事にすべきなのは、西園寺さんがくれた言葉だ。
”時期が来たら必ずきちんと話をするから、俺のことを信じていてほしい”
私は、その言葉を何より信じるべきなのだ――。
そう何度も心の中で繰り返した。
アルバイトを終え、雨の降りしきる歩道へと傘を開いて出た時だった。
「――斎藤さん……?」
「ごめんね、こんなところで待っていて」
歩道のガードレールの側で傘を手にして佇む斎藤さんの姿に、足が止まる。