囚われのシンデレラ【完結】

「あずさちゃんの連絡先知らないからさ。ここでバイトしてたこと思い出して、待たせてもらったんだ」

西園寺さんを介さずに私に会う理由は――。

いつもの斎藤さんのにこやかさも、この日は酷くぎこちない。

「どうしても、あずさちゃんに話したいことがあってここに来た」

傘に当たる雨が激しくなる。ぼつぼつと雨粒が跳ねる音の間隔が短くなって行く。傘の柄を無意識のうちにぎゅっと握りしめ、斎藤さんと向き合うように立つ。

「――今日、佳孝の妹に会ったんだよね」
「え……っ?」

どうしてそのことを斎藤さんが知っているのだろう。
妹さんは、私と会ったことを西園寺さんに内緒にしてくれと言ったのだ。

それなのに、斎藤さんは知っている――。

「佳孝の妹から聞いたんだ。高校を仮病で休んで、こっそり佳孝のマンションに行ったらしい。そうしたら、君がいて本当に驚いたって僕に言ってきた」

妹さん、高校生だったのか。私服だったから分からなかった。
そして、斎藤さんがこの日のことを知っていることに納得する。斎藤さんは西園寺さんのただの友人ではない。お父様が西園寺さんのお父様の側近で、家族ぐるみの関係なのだ。斎藤さんは妹さんとも親しいのだろう。

「……それで、彼女に何か言われたんだよね。あずさちゃんも訳が分からなくて混乱しているだろう。今、何が起きているのか君に話しに来たんだよ」

斎藤さんの声が硬くなる。その声が私の緊張を更に高めて、思わず息を呑んだ。

「実は今、西園寺のホテル、つまりセンチュリーの経営状況がまずい状態に陥っている。まだ世間には広まってはいないけど、このまま手を打てないでいたら広まるのも時間の問題だろう」

西園寺さんの会社が――。

「社の投資部門が大きな損失を出した。その責任者の一人が、西園寺一族の人間で。当然、その責任を問われることになる。責任を取って辞めて済めばまだいい。でも、事態はそんなに簡単なものじゃなくて。早急に手を打たないと、外資に買収される恐れもある」
「買収だなんて、そんな……」

西園寺さんのホテルが、別の人のものになるということか。そうなったら、西園寺さんは一体どうなるのだろう。詳しいことは理解できなくても、それがいかに大変な状況かということだけは分かる。

「乗っ取られて、経営陣は追い出される可能性も出て来るだろうな」

斎藤さんの言葉に、身体が冷えて行く。
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