囚われのシンデレラ【完結】

「そんなこと……そんなこと、出来ません……っ」

西園寺さんのことがこんなにも好きなのに、自ら離れるなんてこと、出来るわけがない。

「あいつにとって君は、何より大切な人だ。心から君を大事に想ってる。それなのに、今の社の状況では君を選べない。それでも君と別れる決断も出来ない」

――あずさ、好きだ。

いつも私を包み込むみたいに抱きしめてくれた。あの少し鋭い目が私を見つめる時に緩む。低い声が、甘く囁く。
あの温もりを、あの眼差しを、失うなんて考えられない。

「状況は否応なしに厳しくなっていく。佳孝はずっと辛い立場で追い詰められているんだ。君が佳孝の傍にいてしてやれることはあるか? 申し訳ないが、君にはどうすることもできない。それに、君には何より大切な夢があるんじゃないのか?」

涙が溢れて斎藤さんの顔が滲んで。苦しくてたまらない。

ずっと考えて来た。私が西園寺さんのために出来ることはなんだろうって。何をしてあげられるのかって。

それが、西園寺さんから離れること――。

「君が本当に佳孝を想ってくれるなら、出来ることは一つ。君が佳孝から離れることだ」
「でも……っ」
「このままだと、センチュリーは他の人間の手に渡ってしまう!」

西園寺さんが、どこか嬉しそうに私に言ってくれたのを思い出す。

『俺、なんだかんだ言って、うちのホテルのこと、結構気に入ってるみたいだ』
『あのホテルを、俺の手で、世界一客に喜んでもらえるホテルにしたい』

「君も見ただろう? まだ高校生の妹に、この先の生活がどうなるか不安な生活に陥らせることになる」

『私たち家族を苦しめないで。お兄ちゃんを苦しめないで』

妹さんは涙を浮かべていた。

私が、いろんな人を苦しませている。でも――。

「本当は佳孝も分かっている。このままではたくさんの人を苦しめることになると。それでも、君がいるからどこにも動けない。お願いだ。佳孝に、大切に想っている君を捨てるような残酷なこと、させないでやってくれ!」

にこやかな斎藤さんはどこにもいない。それは、もう悲痛な叫びだった。

「知ってるよ。佳孝がどれほど君を好きか。初めて本気で好きになった人だ。何があっても守りたいと強く願った人だろう。だから。君を捨てるなんてことをしたら、佳孝の心は壊れてしまう。だからお願いだ。君から離れてやってくれ」

――離したくない。俺のそばにいてくれ。

西園寺さんの部屋で、苦しそうな声でそう言った。あの時、西園寺さんは私にそう言ったのだ。

「私、約束したんです。西園寺さんの口から事情を聞くまで信じて待ってるって。西園寺さんがそうしてほしいって言ったの。だから、西園寺さんから話を聞くまで、そんなこと、出来ません――」
「――この通りだ」
「さ、斎藤さん!」

激しい雨の中傘を投げ出し、斎藤さんが私の目の前で額を路面に押し付けた。
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