囚われのシンデレラ【完結】
指揮者とテンポや重要なポイントの確認を済ませ、演奏を始める
曲の始まりは、オーケストラの演奏のみ。その演奏を背中に感じながら、最初の一音目をイメージしていく。
オーケストラパートが消え、ソロが始まる。ゆっくりと低音から上って行くように上昇して、テーマとなる旋律を弾く。
優雅でありながら、どこか琴線に触れるようなメロディーを響かせる――。
あの部屋で、西園寺さんに聴いてもらった。
あの時までは、私と西園寺さんしかいなかった。二人だけでいられた――。
「――ストップ」
突然指揮棒が下ろされ、入り始めたオーケストラの演奏が消える。
「ソロ、オケが入ったら、ちゃんとその音を聴いて。コンチェルトの基本だぞ」
「はい。すみません」
指揮台に向かってすぐさま頭を下げた。そしてオケのメンバーにも頭を下げる。
「じゃあ、もう一度、バイオリンの入る少し前から、小節番号――」
集中しないと。オケの音と自分の音だけを聴くんだ――。
「ストップ!」
この日何度目だろう。鋭く苛立ちが露わになった声が響き渡った。
「ここはオケとの繋がりが重要になる部分だ。君はオケの音を聴いているのか? オケとの演奏経験がないのは分かる。だからこそ、聴こうという意識を強くもたないと合うはずがない。呼吸が合わない演奏は、聴くに堪えないものになる」
「すみません……っ!」
「独奏じゃないんだ。君一人の演奏会じゃない」
50人以上の人たちの前で、激しく叱責される。
「すみません――」
頭を下げ続ける私に、厳しく冷たい宣告が言い渡された。
「君はまだ、オケと合わせる意識の準備が出来ていないようだ。そんな人間はCDとでも合わせていろ。目障りだ、帰りなさい」
「すみません、私、ちゃんと――」
「聞こえなかったのか? 練習の邪魔だ」
ここにいる人間すべての冷たい視線が突き刺さる。ここに立つ資格はないと言われたのだ。
「すみません――」
重く震える足を後ろへと下げ、立ち去る。その時、第二バイオリンパートのところに座っていた奏音と目が合った。そこから視線を逸らし、舞台袖へと向かう。
舞台から逃げ出す私は、どれだけ愚かなのだろう。