死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
「……裏切らないよ。俺は」
ぽつりと小さくこぼしたリアンの声は、風にかき消されてクローディアの耳には届かなかった。何か言われたような気がしたクローディアは、風で乱れた髪を直すと「リアン?」と呼びかける。
「なんでもない。…その話、受けるよ」
リアンは唇を綻ばせると、その場で膝をついてクローディアの手を取り、手の甲にふわりと口付けを落とした。
「──貴女に私の生涯を捧げます。クローディア」
左手に灯った熱と柔らかな感触に、クローディアの心臓はパニックを起こしたように速度を上げて動き出す。果たして今、クローディアはちゃんと呼吸ができているのだろうか。
こんな──絵本の中で騎士が姫君にするようなことを何の前触れもなくされて、胸を高鳴らせない女などいないだろう。
「……ありがとう。ヴァレリアン」
胸の奥がきゅうと締めつけられるような感覚がして、どうにか絞り出した声がリアンに届いていたかは分からなかったが、リアンは柔らかに微笑んでいたから──きっと届いていたのだと思う。
リアンの優しさを利用して、クローディアは夫君の地位と引き換えに、フェルナンドとの間に挟むようなことをしたというのに。
何の曇りもない、綺麗な微笑を浮かべているリアンを見て、胸が痛くなった。