死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
アウストリア皇城を出たリアンは、一番地味な馬車を選んで乗り込むと、御者に目的地を告げて馬を走らせた。とはいえ皇族が所有しているものなので、街中を走っているものよりも一際高そうに民の目には映っている。
リアンを乗せた馬車は、賑わう城下町を抜け、緑豊かな自然と隣り合う街道を走っていった。やがて見えてきた石造りの街──グロスター侯爵領の中心地を進んでいくと、その景色は少しずつ淋しげな色へと移り変わっていった。麦の収穫が終わった今、以前リアンが見た辺り一帯を染めていた金色はなく、閑散としている土地があるだけだった。
孤児院の前に到着すると、リアンは御者に建物の裏側に移動するよう指示し、護衛の騎士を一名だけ連れて門を潜った。
外で遊んでいた子供達が、突然の来訪人にそわそわとし出す。だがその中にいる一人の少女がリアンを見て、あっと声を上げた。
「あの時のお兄ちゃんだ!」
その少女は嬉しそうに顔を綻ばせると、共に遊んでいた子供の手を引いて、リアンの下へ駆け寄ってきた。その姿は健康的とは言い難いくらいに細いが、以前会った時よりも顔色は良く、衣服もごく普通の市民と同じようなものを着ていた。
「久しぶり。元気にしてた?」
リアンの問いかけに、少女は満遍の笑みで頷く。
「うん! あのね、コウジョフサイさまって人がね、食べるものや種をたくさん送ってくれたんだよ」
皇女夫妻は人名ではなくリアンとクローディアのことなのだが、まだ世の中のことを知らない年の頃だからか、少女は無邪気に笑う。
「みてー、新しいお洋服なの」
「僕は綺麗な紙をもらえたよ。大事にするんだー!」
少女の後に続くようにして、他の子供たちも嬉しそうに教えてくれた。沢山の笑顔を見たリアンは、一番小さな子供の頭を撫でた。
「……そう。よかったね」
幾つもの荒れた大地で、リアンが少しずつ蒔いてきた種の一つが芽吹いたようだ。その花を咲かせ、いつまでも枯れぬように導いていくのが、リアンら皇族の役目であり使命なのだろう。