死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
(──リアンは、)
ふわり、と。窓辺に飾られている百合の花の香りが、鼻腔をくすぐった。優しい甘い香りがするこの花は、エレノスが好きな花だ。いつからそこに飾ってあったのだろうか。
その時、部屋の扉を叩く音ともに、皇帝の来訪を報せる侍従の声が響いた。
「──クローディア。入ってもいいか?」
クローディアは慌てて立ち上がると、小走りで部屋の扉を開けに行った。ドアを開けると、そこには今日も凛とした兄ルヴェルグの姿があった。
「ルヴェルグ兄様っ…! どうなさったの?」
「ヴァレリアン殿下に用があって来たのだ。…殿下はいないのか?」
「リアンは孤児院へ行ったわ」
クローディアはルヴェルグを部屋に通すと、ソファに向かい合って座った。アンナが用意したティーカップから仄かに柑橘系の香りが漂う。エレノスが持ってきた茶葉だろうか。
ルヴェルグも同じことを思ったのか、懐かしむような眼差しでカップを見つめていたが、ぐっと一口喉に流し込んだ。
「殿下も弟たちも、この雨の中出掛けるとは仕事熱心にも程があるな」
「お兄様方も?」
「ああ、そうなのだ。ローレンスはいつもの商談だが、エレノスは珍しく黒い衣装を着ていてな。何日かオルヴィシアラに滞在するそうだ」
クローディアは目をまん丸にさせた。
エレノスがオルヴィシアラに──他国に滞在するなんて、今まで一度もなかったことだ。
「…それは、フェルナンド殿下からのお招きなのかしら」
「そうであろうな。エレノスはフェルナンド殿下と仲が良いようだから」
ふう、とルヴェルグは疲れたようなため息を漏らす。エレノスがフェルナンドと親交が深いことに良い気持ちを持っていないようだ。