死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる

訊きたいことが山ほどあるローレンスは、前で手綱を握っているマリスの白銀の髪を見ながら口を開いた。

「マリス君よ。君と語り合いたいことが沢山あるのだが」

「僕もですよ。殿下」

「ではまずは一番聞きたいことから。君は何故あの場所に?」

今にも顔に触れそうな距離にあるマリスの髪は、夢の中で見た幼子とそっくりだ。だが夢は夢でしかない。あれは現実ではないし、マリスは他国の貴族の令息だ。
そうだと分かっているのに、夢で見た光景が脳裏に散らついている。

「……殿下と別れて、ある人に会って。ほんのひと時話をした後、すぐ近くで人が倒れているのを見つけたのです」

国一の規模を誇る孤児院の近くで、ローレンスはマリスと別れた。そこでローレンスは襲われ、連れ去られたわけだが、その後現場の周辺でマリスは倒れている人を見つけたという。

「青い髪を束ねた方でした。細身の剣を持っていて」

「それは僕の部下のハインだな」

ハインは文官だが、剣も扱える優秀な人間だ。ローレンスが一番信頼している部下であり、長く傍で仕えてくれている。

「意識があったので、応急処置をしたのですが…。殿下が連れ去られた、今すぐ馬車を追わなければと言っていて」

「それで?」

「その怪我で何を言ってるんだろうって思ったので、城に報せに行けと言いました。代わりに僕が後を追って、あそこに侵入したというわけです」

遠い北の地から家出をし、ローレンスに引っ付いて誰かに会いに行ったかと思えば、今度は単身で隣国に乗り込むとは。

「君はお転婆なのだな…」

ローレンスの小さな呟きが聞こえていたのか、マリスは愉しそうに微笑う。
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