死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
「ふふ。僕を育ててくれた伯父上が悪戯好きで、色々教えてくれたんですよ」
「たとえばどんな?」
「家庭教師から逃れて遊ぶ方法とか、鍵穴をこじ開ける方法とか、見張りの張っ倒し方とか」
嬉々としてマリスは語るが、どれも良いことではない。だがローレンスも子供の頃にやったことがあるので、何をしているんだと叱ることはできず、共に声を出して笑ってしまった。
「いけない伯父上ではないか」
「大好きな伯父上です」
貴族としてあるまじき行為だと思う。けれど、貴族の子供ならば、どれも一度は経験することだろう。その窮屈な世界から一時でも逃れるために。
「君はその伯父様を……」
ローレンスは言いかけた言葉を飲み込んだ。気になったことを訊かずにいられないのは悪い癖だ。悪気がなくとも、受け取り方によっては不快な想いをさせてしまうかもしれないから。
「何でしょう?」
「いや、何でもないよ」
「ええ、気になるじゃないですか」
マリスは戯けたように言っていたが、顔が見えない今、本当に気になっているのかどうかは分からなかった。
(……なぜだろうか)
マリスは伯父のことを大好きだと言っていた。育ててくれた、と。ならば両親とは関係が悪いのだろうか。家族同然の伯父を置いて、たった一人でここまで来たのだろうか。
気になることは山のようにあったが、ローレンスは一つも口にすることなく、目の前で揺れる銀髪を見ていた。