死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる

オルヴィシアラ王国は三方が海に面している国だ。国土の西側には帝国があり、それ以外の国に行くには帝国を通らなければ行けない。

帝国に次ぐ広さと美しい海を持つが、王国の土では小麦が育たない為、帝国と平和に付き合って行かなければ、国民が飢えることになる。だから王国が帝国に牙を向くことは今までなかったのだが──。

「……あれは軍か?」

王国と帝国の地を分かつ国境が見えてきた頃、ふたりは信じられないものを見た。瞬時に馬の手綱を引いたマリスは木陰で紐を解き、ローレンスと共に目の前に広がる光景を凝視する。

「軍、ですね」

二人の視線の先には軍勢が居た。先頭で掲げられている旗はオルヴィシアラのもので、その後方には三つの国の旗が風ではためいている。

ローレンスはマリスと静かに木々の間を通り、軍勢がより見える場所へと寄り、三国の国旗を見た。隣にいるマリスの目は、軍勢の先頭にいるオルヴィシアラ軍へと向けられている。

「オルヴィシアラ軍の半数以上は国教騎士団だと思います。あの黒い旗とマントを着ている者たちがそうですね。残りは…」

「マーズとベルベット、オーガストの国旗だな。先の大戦で我が国に敗れた国たちだ」

四年前に起きた大戦で、その三国は帝国に敗れた。帝国の革新的な戦術に大敗した三国に報復する力など残されていないだろう。

自国の民を守り、国を立ち直らせることで精一杯だったはずの三国が、ほんの数年で武器を手に再び立ち上がるとは予想だにしなかったことだ。

それどころか、その先頭には戦嫌いのオルヴィシアラがいる。
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