死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる

ローレンスはもう一度軍勢を眺め、それから思案に暮れているマリスを見た。どのようにして帝国領に入るか──アウストリア皇城に還るか考えてくれているのだろう。

目の前には軍勢がいるというのに、こうして冷静でいられるのは、傍にいるのがマリスだからかもしれない。

(さて、どうするか。せめてオルシェ領に入ることさえできれば…)

ローレンスは目を閉じ、家族の顔を浮かべていった。

ルヴェルグはこの報せを受けて、宰相ら重臣たちと策を講じている頃だろう。その場に自分ともうひとりの兄のエレノスも居ないことに胸を痛めているだろうが、民を守るために皇帝として舵をとっているはずだ。

クローディアは安全な場所に避難しているだろうか。その傍らにはヴァレリアンが居て、寄り添ってくれているのだと思う。

だがヴァレリアンは冷静では居られないだろう。自分が生まれ育った国が、我が国に攻め入ろうとしているのだから。たとえ思い入れのない国だったとしても。

「ローレンス殿下」

マリスに名前を呼ばれ、ローレンスは振り返った。

「あの軍が待機している橋の下を北上し、ロバート伯爵領に行って頂けませんか」

迷いのない表情で、声で、そう告げられたローレンスは、思わず目を大きく開いてしまった。
< 296 / 340 >

この作品をシェア

pagetop