死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
「理由を聞いても?」
「ロバート伯からジェラール侯爵家へ早馬で伝書を届けて欲しいのです。ジェラール侯爵家の軍と共にオルシェ領へ援軍を、と」
マリスは木の棒を手に、先程まで睨めっこをしていた地面に描いた地図を枝でなぞる。改めてそれを見てみると、王国の国境と帝国の東側の領土が分かりやすく描かれていた。
最近の貴族の令息は他国の領内だけでなく、貴族の要人にも明るいのだろうか。
「……ふむ、なるほど。ロバート領はオルシェ領の隣で、ジェラール家は屈強な騎馬隊を有しているからね」
「御二方の協力を得られたら、殿下はそのままヴィクトリア城へ行っていただけませんか」
「祖母の元に?」
「ええ、ティターニア太皇太后様の元へ。共に軍に加わって頂きたいのです。影武者でも構いません」
ローレンスは言葉を失った。吸い込まれるようにマリスを見つめながら、その口から出てきた策をしかと頭に入れる。
ローレンスの祖母が現在ロバート領にある城で暮らしているのは、帝国の皇族と重臣しか知らない事だ。他国の貴族であるマリスが知るはずもない。
何故ここまで帝国のことを知っているのか。僅かな時間でこれからのことを導き出したこの少年は、本当に他国の人間なのか。
「……マリス君は」
全てを訊こうにも、今は時間がないことを分かっていた。それでも少年の名を口にせずにはいられなかった。
「僕は城へ向かいます。殿下とはここでお別れですね」
マリスは微笑った。名残惜しむようにリリーを撫で、ローレンスに深々と敬礼をすると、外套を深く被り去って行った。
その去り際に、何かを囁いていたような気がした。