死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
──私に触れないと約束してくれるのなら。クローディアのその言葉に、フェルナンドは直ぐに頷くと、アルメリアの花壇を横目に歩き出した。
「……この花、お前が植えさせたのか?」
「いいえ。私が悪夢から目醒めた日に、ここで満開に咲いていたの」
悪夢という単語に、フェルナンドは眉を動かした。
「アルメリア、か」
春の花の名で、ふたりの間に生を受けた子供の名前。ルヴェルグが名付けた我が子を一度も抱くことなく、クローディアは逝った。
フェルナンドは花からクローディアへと目を移すと、その青い瞳を切なげに揺らした。
「……あの子はお前の生き写しだったな」
白銀色の髪と菫色の瞳を持った、玉のように美しい王子。誰もが口を揃えて、息子のことをそう言っていたのは知っていた。クローディアにそっくりだ、と。
(そんなふうに言うのなら、どうして…?)
クローディアは俯いた。まるで自分が死んだのを惜しむような口振りで、懐かしむようなことを言われたからだ。若くして命を散らせたのは、他ならぬフェルナンドの所為だというのに。
「…この腕で抱きしめてあげたかったわ。たったの一度も叶わなかったけれど」
「アルメリアに逢いたいのなら、何故私を選ばないんだ? よりにもよって、なにゆえヴァレリアンを…」
「それはあの子がその身と引き換えに、私の時を巻き戻してくれたからよ」
クローディアは右の手のひらを握りしめながら顔を上げた。震える唇を噛み締めて、フェルナンドの深い青の瞳を見る。
ずっと逃げてきたものに、やっと真正面から向き合った。それだけで涙が出そうになった。