死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
「そんなはずはっ…」
「あの子は私に言ったわ。貴方のような人間とは、もう二度と歩むなと」
フェルナンドは前髪をくしゃりと掻き上げると、何かを抜かれたような顔で数歩後退り、煉瓦造りの花壇に躓いて尻餅をついた。暫くの間、呆然とした様子で口を閉ざしていたが、クローディアが目の前まで来ると顔を上げた。
「……会ったのか」
「ええ、夢の世界でだけれど。貴方にひとつも似ていない、愛おしい顔をした子だった」
フェルナンドはふ、と諦めたような息を漏らす。黒い手袋を嵌めている方の手を花壇に伸ばすと、風に揺られていたアルメリアの花を毟り取り、八つ当たりをするかのようにクローディアに向かって投げつけた。
だか、その花はクローディアの脚元にはらりと落ちた。
「フェルナンド」
クローディアは語りかけるように、かつて夫だった男の名を呼んだ。脚元に落ちた手折られた花を指先で掬い上げると、そのままフェルナンドの目の前まで近づいた。
王国が代々繋いできた黒い髪と青い瞳を持つ、大貴族の娘との間に生まれた正統な血筋の王太子。リアンを太陽と喩えるならば、フェルナンドは夜だ。全てを覆い隠さんとする、深い闇。
そんな男にひと時でも幸せな夢を見ようとした自分のことを恨めしく思いながら、クローディアは薔薇色の唇を開いた。