死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる


──フェルナンドはクローディアを欲している。

突如起きた凶行を前に、誰もが剣を手放した時、その事実を知った。だがそれは自分だけではない。

「──直ちに王国の騎士共を捕らえよ」

ルヴェルグが声を張り上げたのと、リアンが剣を拾ったのはほぼ同時だった。クローディアがフェルナンドに連れ去られ、外へと繋がる扉が閉まると同時に、ルヴェルグが片手を挙げて合図を出したのだ。

帝国の騎士達は素早く王国の騎士の口を塞ぎ、手脚を拘束すると、鮮やかな手捌きで柱に括り付けていった。

その様を静かに見つめていたルヴェルグは、自分が手放した獅子の飾りが嵌め込まれている剣を拾うと、切れ長の瞳を細める。

「これは王国からの宣戦布告と見做して良いのか? エレノス」

項垂れていたエレノスは肩をびくりと揺らし、生気のない瞳をルヴェルグへと向けた。

「…わたしは、なにも…」

「そなたはフェルナンドに何を言われ、何をしに、そのような姿でここに戻って来たのだ?」

帝国の唯一人の皇爵であり、皇帝の片腕でもあるエレノスが、この事件のきっかけを作った。理由があったとしても、許されることではないのだ。エレノスは皇帝の弟なのだから。

エレノスは暫くの間、口を閉ざしたままルヴェルグを見上げていたが、見下ろされているうちに何か思うことがあったのか、両目から涙を溢れさせた。
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