死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる

ルヴェルグはゆっくりとした足取りでエレノスの目の前まで行く。流れるような動きで片膝を着くと、エレノスの頬に手を添え、顔を覗き込んだ。

「……我が弟よ。どうして私に何も言わずに、行ってしまったのだ」

「っ………、あに、う…」

申し訳ありません、と嗚咽混じりに繰り返しながら、はらはらと涙を落とすエレノスを、ルヴェルグはそっと抱きしめた。

いつの間にか、こんなにも大きくなっていた。二つしか年は離れていないが、背を追い越されようと、勉学も剣術も自分より優れていようと、エレノスがルヴェルグの弟であり大切な家族であることに変わりはないのだ。

たとえ剣を向けられても、背を向けられても。何も言わずに自分の元を去られたとしても。

「──セヴィ。フェルナンドとクローディアの行方は」

ルヴェルグはエレノスを抱きしめたまま、傍に控えていた腹心のセヴィに声を掛けた。信頼する部下が既に動いている事を知っているから、ルヴェルグは今、エレノスの涙を拭うことができている。

「皇女殿下は南宮へ。精鋭部隊が控えております」

「そうか。では捕らえた王国の騎士共は牢に入れ、あちらに使者を送れ」

「かしこまりました。我が主」

素早く動き出したセヴィを見送ると、ルヴェルグはエレノスに向き直った。
エレノスはもう、泣いてはいなかった。
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