死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
──『クローディアと私は夫婦となる。神が定めたのだ』
それを聞いた時、ああまたか、と思っていた。口を開けば神だのお告げだの、運命などと言っている男だったから。
帝国の皇女に向かって、よくそんな馬鹿げたことが言えたものだとあの時は思っていたが──。
リアン、と。朝露のような微笑みを浮かべながら、自分の名を呼んでくれたクローディアの声が木霊する。
それとともに頭に流れ込んできたのは、怯えたような目でフェルナンドを見ていたクローディアの横顔だ。
(……そうか。そういうことか)
リアンはぱっと目を開けて、剣の鞘を握る手に力を込めた。
絡まっていた糸は解けた。その一線の先にあるのは、夢に囚われている男と、運命から逃げている少女だ。
(きっと、ふたりは同じだった)
時を遡るなんて、あり得ない話だ。だがそれを前提に考えると、これまでのフェルナンドのおかしな言動や行動に納得がいく。
クローディアが運命に逆らいたいからと言って、自分を選んだことも。
「……あの方の話が真でも嘘でも、ディアへの深い想いは偽りだと思えなかったのです」
「だから騎士を引き連れたフェルナンドと共に戻ってきたのか?」
「……申し訳、ありません」
後悔に押し潰されているのか、エレノスはそれきり口を開かなくなった。今はこれ以上話すことはないのか、ルヴェルグは立ち上がると側近に指示を出し始める。
その時、扉が勢いよく開かれ、一人の兵が転がるように駆け込んできた。