死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
「そなたの当初の目的は、何だったのだ」

布を裁ち切るようなきっぱりとした声で、ルヴェルグは問いかける。エレノスの目は大理石の床を見つめていたが、この状況下でいつまでもそうしていられないことを悟ったのか、恐る恐る顔を上げた。

「兄上に……その座を退いていただこうと、思っていました」

思っていた。もう過去のことだと語るエレノスは、枯れた花のような表情をしていた。

「私の首を取るつもりだったのか?」

「いいえ! 命を奪うなど、私には出来ません…」

ならば何故、何も言わずに隣国に行ったのか。その理由は単純明白で、エレノスが優しい人間だからだ。そんな人間に、血を分けた家族を傷つけることなど出来やしない。

フェルナンドと共に行って、それからどのようにしてルヴェルグから王冠を奪うつもりだったのだろうか。そう問いかけたところで──答えは出てこないだろう、と思う。

ふ、とルヴェルグは口元だけで微笑うと、長い脚を組み、頬杖をついた。

「ローレンスは何処にいる」

「あの子は王国が所有している塔の中です。危害は加えていません」

エレノスは凛と顔を上げ、きっぱりと言い放った。それを聞いて、ルヴェルグは安堵したような表情を浮かべると、剣を手に立ち上がる。

「──エレノス。私は皇帝として、この国と民を守らなければならない。引き換えに、大切なものを失うことになったとしても」

「それは…」

どういうことかと尋ねようとしたエレノスに、ルヴェルグは静かな笑みを向けた。それきり言うことはないのか、颯爽と歩き出すと、エレノスの横を通り過ぎる時に、囁きのような声でこう問いかけた。

──守りたいものはあるか、と。
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