死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
皇女を誘拐した隣国の王太子を引き入れたのは、皇帝に次ぐ地位にあるエレノスだ。

目的も告げずに隣国へ行ったかと思えば、護衛にしては数が多い騎士を連れた王太子と共に、堂々と城に戻ってきた。そして皇女が人質に取られ、国境では隣国を筆頭に合同軍が進軍してきた。

妹を守りたい、フェルナンドの願いを叶えたい。その望みのために歩き出したエレノスが掴んだのは、予想だにしなかった未来なのだろう。

去り際のルヴェルグの問いかけに、己が起こした事の重大さに気付いたのか、エレノスはふらりと立ち上がる。

「エレノス様…!」

傾いたエレノスの身体を、リアンは咄嗟に支えた。不安げに揺れる大きな青い瞳を見て、何かを重ねたのか──エレノスは髪を掻き上げながら力なく微笑う。

「……殿下…」

吐息のような声は掠れ、枯れた花のようだ。その花に慈雨となって潤いを与えていたのは、クローディアの存在なのだろう。

「ディアが、心配しています」

「大罪を犯した私を、あの子は兄と呼ぶだろうか」

己の過ちの所為で、クローディアは今この瞬間も命を脅かされている。妹だけでなく、この国に悪いものを招き入れてしまったというのに、ルヴェルグはエレノスを捕らえなかった。

その理由を探し求めるように、エレノスはリアンを見つめた。
< 309 / 340 >

この作品をシェア

pagetop