死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
──『貴女を一目見た時から、心を奪われてしまいました。我が妃になっては頂けませんか? クローディア皇女殿下』
この世で一番会いたくもない男の声が、姿が、あの時の記憶が蘇る。
ふわりとたなびく闇色の髪、青い瞳、弧を描く唇。甘い言葉でクローディアの心を捕らえ、騙し、籠の中に入れてころした。
(──…フェルナンドっ…)
クローディアは震える唇を噛まぬよう、平静を装いながら顔を上げた。
そこには、あの日と同じ姿のフェルナンドが立っている。その口元には笑みが浮かんでいる。きっと、その仮面の下ではどのような手を使って蝶を捕らえるか考えているのだろう。
「これは失礼いたしました。まさかクローディア皇女殿下だったとは」
こうなるのを分かっていて、真珠が自分の足元に転がるよう落としたのではないだろうか。帝国の皇女と接点を作るために。
「御目に掛かれて光栄でございます、クローディア皇女殿下。…噂以上にお美しい」
フェルナンドに挨拶を返さないどころか、無言で固まっているクローディアを見て、周囲の人間は一体何事かと囁き出した。
絶世の美女、深窓の姫君などと謳われているクローディアだが、賓客に挨拶すらできない人間なのかと陰口を言い出す者もいた。
沸々と漂い始めた陰鬱な空気に耐えられなかったクローディアは床から足を剥がした。
突然怯えたようにその場から後退し始めたクローディアを見て、ラインハルトが何かを言ってきたが、その場から逃げるように走り出した皇女の耳には届かなかった。