一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
「そうね、例えば……。
Aさんはテニスが好きです、Bさんもテニスが好きです。
2人はテニスの話で盛り上がりました。
はい、カップル成立です……とは、ならないでしょ?
ちょっと極端な例えだけど」

「確かに、ならないです…」

「クロエはあまり話さないし、笑ったりもしないから、わかりづらいけど……。
一緒に暮らして、一緒に海に行くっていうのは、あの子にとってはものすごく特別よ。
人って、言葉や顔に出てるものがすべてじゃないわよ。
だから、そんな風に思わないで」


瑤子さんの笑顔を見ていたら、なんだか晴れやかな気持ちになった。
もう少し、自信を持っても良いんじゃないかって。


クロエさんは言葉は少ないけれど、行動ではたくさん示してくれる。

詮索はしないで、ただ抱き締めて落ち着かせてくれた。
瞼に優しく口づけもしてくれた。

言葉がなくても、伝わってくるものはあった。


自分からも、この前クロエさんを抱き締めた事で、クロエさんには何か伝わったんだろうか。
キスした事も、同じベッドで朝まで抱き合って眠った事も、お互いに口にする事はなかった。

そもそもあれは……キスではないとも思う。
確かに唇と唇が触れ合ったけど、さらっとしていて、キスと呼ぶには違う気がする。

クロエさんはどう思っていたんだろう……。
< 155 / 186 >

この作品をシェア

pagetop