一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
瑤子さんが来た翌日、姫野さんとボルダリングに出掛ける支度をしていると、クロエさんも撮影に出るところだった。
いつもは着ないようなタイトな黒いシャツに、いつもよりもスリムな黒いパンツを合わせたクロエさんは、少しフォーマルな装いにも見える。
「クロエさん、いつもと感じが違いますね」
「そうだね、今日はね………」
いつもと、様子が違う。
前に見た、冷めた空っぽな眼をしてる。
「何か、ありました?
詮索するつもりは……ない、ですけど……」
クロエさんは何も言わず、急に力強く抱き締めた。
救いを求めるみたいに、泣き出すみたいに。
なにかあったんだろうか。
そんなに緊張するような撮影でも、あるんだろうか。
どうして良いかわからず、ぎこちない手で背中や髪を撫でると、徐々に抱き締める力は緩められていった。
腕が解け、目が合うとクロエさんはやっと口を開いた。
「―――帰ってきたら、褒めて」
泣き出しそうな顔で笑って言うと、クロエさんは家を後にした。
もっと自分からも、抱き締め返したら良かった。
ぎこちなくても、もっとなにか出来たんじゃないのか。
姫野さんとの待ち合わせに向かいながら、後悔した。