一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
家に帰ると、クロエさんはまだ帰っていなかった。
なんだか気が抜けた。
でも、まだ頭の中を整理出来ていなかったから、良かったのかもしれない。



シャワーを浴びながら、ずっと考えた。

今日、クロエさんはどんな気持ちで二人の前撮りに行ったんだろう。


自分だったら、きっと耐えられない。
好きだった人の結婚式の前撮りをするなんて……。


茉莉香と彼氏と、食事をするだけでも辛かった。
あの場から、すぐにでも逃げ出したかった。
ずっと二人の笑顔と笑い声が、頭から離れなかった。

なのに、目の前で二人の結婚式の姿を見て、シャッターを切って、一番近くで二人の幸せな笑顔を見るなんて……。


クロエさんは帰ってきたら褒めてと言っていたけど、なにをしたら良いんだろう。

クロエさんは、どうして欲しいんだろう。

自分には……なにが出来て、どうしたいんだろう……。



髪を乾かしているとクロエさんの帰ってくる気配がした。

早く、顔を見たい。

どうしたら良いかもわからないけど、早く会いたい。

急いで玄関へ向かうと、家を出た時よりももっと冷たい眼をしたクロエさんがいた。
今朝はそう思わなかったのに、今は真っ黒い服が喪服みたいに見える。


「……ただいま」


そう言った口元は、とてもぎこちなく少しだけ微笑んでいた。


そんな風に壊れるみたいに笑わないで。


おかえりなさいも言わずに、クロエさんを抱き締めた。

クロエさんが抱き締めてきた時よりも、もっと強く。
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