御曹司の溺愛から逃げられません

トン。
肩をそっと叩かれ振り返るとそこには私のよく知る瑛太さんがいた。

「お疲れ様。今いい？」

瑛太さんなの？　社長なの？
頭の中が混乱している。

「香澄。こっちで話そうか」

そう言うと肘を掴まれ隅に連れていかれる。
途中、室長に「ちょっと借りるから」と声をかけると頷いていた。

「香澄。連絡できなくてすまない。忙しくてなかなか連絡出来なかったんだ」

私に頭を下げてきて驚いた。

「頭を上げてください！」

「怒ってないのか？　1ヶ月だぞ。香澄が不安になってるのではないかと思っているのに声もかけてやれなかった。すまなかった」

また頭を下げる彼にますます慌てた。
周囲からの、見てませんよという視線が辛い。

「瑛太さん！　本当に頭を上げてください」

私が小さな声でお願いするとやっと頭を上げてくれたが、私の様子を伺うような表情でどこか不安げ。

「お願いですから顔を上げていてください」

「分かった。香澄は元気だったか？」

「はい。瑛太さんは？」

「忙しくて元気とは言えないな。香澄不足だ」

彼の言葉にまた慌てた。

「ちょっと！　どうしてそういうこと言うんですか。お願いですから隠して。私、ここで働けなくなっちゃいますから」

支店にいる時も彼との付き合いは内緒にしていた。今回も同じ職場で働いても内緒にしてもらうつもりだった。

「隠す必要はない。俺は隠したくはない」

彼がこんなに強くはっきりと意思を伝えてきたのは初めて。私の気持ちを尊重してくれていたのに……。

「俺は西園寺コーポレーションの後継だ。今日正式に就任した。これからは今よりもっと忙しくなる。だから俺は香澄にそばにいてほしくて呼んだんだ」

「え？」

「俺のわがままで秘書課に呼んだ。もちろん君には適任だと思う。それ以上に俺を支えて欲しいんだ」

彼の言葉の意味がわからなかった。