御曹司の溺愛から逃げられません
「こっちだ」

彼に手を引かれ、ガーデンの小道を進むとドアがあり、セキュリティゲートがあった。
キーをかざすとドアが開き、コンシェルジュが出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ」

「ただいま、清水さん」

彼はそう言うと私を紹介してくれた。

「彼女は柴山香澄さん」

「柴山様。コンシェルジュの清水です。よろしくお願いいたします」

メガネをかけた優しそうな初老の男性だった。

「柴山です。よろしくお願いします」

清水さんに頭を下げられ、私も改めて頭を下げた。

「他のコンシェルジュにも伝達しておきますね」

「よろしく頼む」

それだけ言うと私の腰を抱き、彼はエレベーターに促した。
エレベーターでもキーをかざすと自動的に部屋の階に止まるシステムらしい。
ぐんぐんと上昇し、35階で止まった。
最上階だ……。

「こっちだ」

彼に促され部屋の前までやってくると、またキーをドアにかざしていた。
物件を取り扱う仕事上、セキュリティの高さがよくわかる。また、ここがどれだけの値段かと考えるだけで恐ろしくなる。

「はい、どうぞ」

「お邪魔します」

彼に出されたスリッパを履き、室内へ案内された。

一歩踏み入れたリビングはダークブラウンで統一されており、ソファや家具もシックだ。ルームライトの間接照明が部屋の至る所にあり、彼のセンスの良さを感じた。
大きなテレビにソファセット、ダイニングには6人がけの大きなセットが置かれていた。
何もかも私の狭い部屋とは違っていた。

「座って」

革のソファに案内されると彼はキッチンへと向かっていった。
私はソファに座り、悪いと思いながらもつい部屋を見渡してしまう。
チェストの上に何故か見覚えのある小箱が置かれていた。

「あ、これ」

「あぁ。香澄からもらったお菓子が入っていた箱だ。なんとなく記念にな……」

頭をかき、少し恥ずかしそうな顔をする彼の顔に胸がギュッと締め付けられる。
初めて出かけたあの日、せめてものお礼にと買ったお菓子の箱を取っておいてくれるなんて胸の奥がくすぐったい。

彼はキッチンからビールを取り出しグラスに注ぐと私の前に置いてくれた。
いつのまに用意したのかチーズや生ハムがお皿に並べられておりつまみの準備までされていた。
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